09米粉の加工製粉技術から見た米粉の特性
1はじめに
昨今では異常気象、肥料価格の上昇などにより、前例のない食料危機が懸念されています。また、小麦の生産を支えているウクライナ国の紛争によって小麦市場は価格が高騰し、暗い影を落としました。
一方、日本政府が発表している資料によれば、日本の食料自給率は1965(昭和40)年度にはカロリーベースで70%を超えていましたが、2021(令和3)年度には38%と減衰し、食料の多くを海外に依存しています。ひと昔前の朝食では主に米が消費されていましたが、最近はパンやシリアル類が消費されています。主食以外でも洋菓子やスナックなどの日本の食文化の多様化により、米以外の穀類など選択肢が増えています。
また、一人当たりの米消費量はピークである1962(昭和37)年度の118.3㎏から、2021年度では51.3㎏と半数に減っており、日本における米消費量は減少し続けています※1(図表1)。そのため、政府は米の需要拡大に米粉利用を推進しています。
図表1 米の消費量の推移
注:1人1年当たり供給純食料の値。
米粉用米の品種改良や米粉製粉技術の向上、米粉を使った調理技術やレシピ研究によって、現在では、さまざまな米粉加工食品の製造が可能になりました。
2米粉の種類と加工特性要因
米粉は米菓や和菓子など限られた用途向けとして従来、認知されている上新粉などがあげられます。
米粉の種類は大きく分けるとアルファ(α)化米粉とベータ(β)米粉に分けられます。α化米粉は原料に水分を与え糊化させ、焼成装置などで熱を加えせんべい状にしてから粉砕したものになります。これらは和菓子の落雁や押菓子などに使われます。
一方、β米粉は糊化していない粉です。白玉団子や柏もちなどに使われるもち粉や上新粉が代表的であり、一般的にはα化していない粉を米粉と認識されています。以下β米粉を米粉として説明します。
(1)アミロース
米粉の原料はもち米とうるち米があり、作る用途により使いわけます(図表2)。
図表2 米粉の種類と主な製品
うるち米にはアミロースが含まれ、もち米にはアミロースがありません。アミロースの割合が少ないと粘りの強いご飯になり、アミロースの割合が多いと粘りの少ないご飯になります。
(2)でんぷん損傷
米は小さなでんぷん細胞の集合体でできており、細胞と細胞の間には細胞壁があります。粉砕によって細胞集合体を壊しますが、かならずしも細胞壁で崩れるわけではなく、単粒細胞の壁が傷つき、あるいは細胞自体を壊してしまうこともあります。粉砕によって単粒細胞が壊れた値をでんぷん損傷率と呼びます。
さまざまな粉砕機の作用や製粉方法によってできた米粉のでんぷん損傷率の値は、機械によって異なります。でんぷん損傷率によって加工する米粉食品の生地の柔らかさや加水量に影響を及ぼします。
(3)粒度分布
粉砕における粒子の大きさをコントロールするのは、その粉砕機の作用と加えるエネルギーの強さと時間にあります。強いエネルギーを加えると、米はより細かい粉となります。さらに長時間作用を与えれば、より細かくなります。
作る加工食品によっても異なりますが、一般的には米粉の粒子が大きければできた食品の舌触りが粗く感じ、細かければ舌触りも細かいと感じます。粒子の大きさは米粉食品にいろいろな影響を与えます。これらアミロース値、でんぷん損傷率、粒度など複数の組み合わせにより、加工する食品に影響を与えます。
3米粉の指標
上新粉や白玉粉、もち粉などに用いられる米粉は、地域の文化により味や食感が異なり小麦粉のような水準の規格や定義はなく、その地域によって米粉の製粉方法はさまざまです。加工する米粉食品の種類や特徴に合わせた製粉方式でできた米粉を選択する必要があります。政府は菓子・料理用、パン用、麺用など用途に合わせた米粉の基準を設けています※2。
米粉の種類によって製粉工程や装置もさまざまですが、一般的な呼称を用いて工程や装置を説明します。
(1)乾式製粉
乾式製粉とは、精米された白米をそのまま粉砕する製粉方法です(図表3)。
図表3 乾式気流粉砕機の品質と特性
粉砕機は多種多様な機種が使われ、粉砕された米粉は、粉砕機同様にそれぞれの特徴を持っています。ただ、でんぷん損傷率は比較的に高くなる傾向にあり、一般的には10%前後になります。粉砕の作用、エネルギーの強さ、かける時間によって粉砕粒度の範囲が決まりますが、平均粒度は100ミクロン前後になります。粉砕のエネルギーを強くするか、時間や回数をかけることにより粒子を細かくすることはできますが、その分でんぷん損傷率も高くなる傾向になります。
(2)湿式製粉
湿式製粉とは昔から和菓子などに用いられており、より品質の高い米粉を得るための製粉方法です(図表4)。製造工程を以下に示します。
図表4 湿式気流粉砕機の品質と特性
1)浸漬工程
精米された白米を水で洗浄し、精米工程で付着しているぬか質やほこり、土壌菌などを取り除きます。その後、水に浸し米に吸水させます。白米の水分は13%前後であり、米の飽和水分値はおおよそ30%程度になります。この工程を浸漬工程と呼び、飽和水分値近くまで吸水させます。
米の品種や精米度合、収穫時期などの米の品質や、浸漬する水温などの環境にもよりますが、10分から1時間前後吸水させます。この工程を浸漬工程と呼びます。玄米の場合、表面のぬかが吸水を妨げるので一昼夜浸漬することもあります。
2)テンパリング工程
水を切った後は15分から60分程度米を寝かせ、米の芯や隅々まで水分を均等に行き渡らせます。この工程をテンパリング工程、あるいはエージング工程とも呼びます。
3)粉砕工程
テンパリング工程を経てようやく粉砕工程になりますが、わざわざこのような複雑な工程を行うには理由があります。湿式製粉は水分を浸透させた米は細胞間を緩ませ、米が柔らかくなることにより、小さなエネルギーで粉砕を行うことができるのです。
また、細胞間を緩ませているので細胞壁で分離する確率は高まり、粉砕も容易にできます。
4)乾燥工程
粉砕後の米粉は高い水分であるため、米粉製粉を専門にする製粉所では、米粉を流通させるための乾燥工程が必要となります。湿式粉砕の場合、粉砕工程と乾燥工程がセットになっており、水分値を13%程度に戻して安心・安全に市場へと流通させています。
(3)和菓子・米菓用途の製粉機
1)スタンプミル
「スタンプミル」は和菓子用米粉の代表的な製粉機です。餅つきのような臼に米を仕込み、金属性の杵で搗いて粉砕します。水分を吸水させた湿式製粉で行います。
米は杵の圧力を受けますが、臼がすり鉢状になっているうえ一定量の層厚があるために米同士が擦れ、押しつぶされる磨砕方式となっています。臼の上部は後方面から米を供給し前方面はカットしており、米が入れ替わり溢れて排出されます。排出された米粉は粒子をそろえるために粒度選別用のシフターと組み合わせて使われています。粗い粉は再度スタンプミルに戻され、再粉砕されます。製品は乾燥工程を経て仕上げます。
2)ロールミル
機械構造は、2本のロールに高速と低速の回転差があり、表面にはせん断作用をあげる溝歯が加工されています。鋭角側をS(シャープ)、背角側をD(ダル)とし、さまざまな組み合わせで粉砕を行います。米粉製粉では湿式方式で使う場合があり、水分値が高いとロールの溝歯に米粉が巻き付き粉砕ができなくなります。よって水分を25%前後にコントロールする必要があります。
また、米粉の粒度を調整する目的としてフルイ機を使用します。設定された網目より小さなものを製品とし、大きなものは再度粉砕されます。シフターを通った粉はすぐに乾燥工程に移り、和菓子用の上新粉などに使われています。品質はスタンプミルほど高くなく、大量生産向けとして使用され、用途に合わせて使い分けられます。
(4)パン・麺・洋菓子・米菓・調理用途の製粉機
「気流粉砕機」は主に湿式で使われています。機械構造は粉砕ゾーンにブレードが高速で回っており、そのブレードの周囲は波型のライナーで覆われています。ブレードと波型ライナーとのわずかな隙間を気流が高速で回っています。米は高速気流に巻き込まれ、原料同士の衝突を繰り返し粉砕されていくので気流粉砕機という呼称で知られています。
また、高速気流を媒体としているため粉砕熱は軽減され、米粉のα化を防ぐことができます。湿式に対応しているので粉砕粒度も細かくでき、でんぷん損傷率もきわめて低く5%以下になります。
主な食品では米粉パンや米粉麺、洋菓子などさまざまな食品などに利用できます。また、小麦粉の代替としても利用範囲の幅が広がり、小麦アレルギーの対策としても活用ができます。
湿式製粉法式のなかでもスタンプミルやロールミルとは異なり、粒度は平均粒径30㎛から60㎛程度とかなり細かくなります。また、粉砕機の高速気流による排出が可能なため、シフターによる粒度選別の必要がなく、そのまま乾燥工程へつながります。
4米粉製造に関する環境
(1)大型製粉設備
湿式粉砕機方式の粉砕機を用いた製粉設備は、全国で操業され大量生産により低コストで安定した品質の米粉を生産できます。
地元産の米を米粉にするには、製粉機を導入するか製粉会社へ委託をするかのいずれかになります。委託の場合、機械設備投資の必要がなく、加工費と輸送費のみで米粉にすることができますが、比較的コストが高くなります。小ロット、玄米、有色米、有機米などの特殊米は、清掃効率やコンタミ防止の取組みにより、製粉会社は対応を行っていません。
(2)小型製粉機
気流粉砕機は湿式製粉方式ができる小型製粉機で、小ロットや特殊米を自家製粉することができます。そのため、地場の特色を活かしたオリジナリティのある米粉商品の開発や生産をすることができます。たとえば、地域でとれたお米と特産品の掛け合わせにより、地域独自のストーリー性のある商品開発で、6次産業化の仕組みづくりの助けとなります。
5最後に
これまで米は粒食として消費することや和菓子やもち、米菓などに加工されるなど、限られた食品として消費されていました。製粉技術や加工技術の向上により、小麦の食品の代用にとどまらず、もちもちの食感や風味、保湿性など米独自の特徴をもった食品が開発されています。そのような米粉の利用は大きな飛躍ととらえています。
あらゆる方面から注目や開発されている米粉を多くの方に知っていただき、発展してくことを期待しています。米粉に関わる者として、製粉技術向上や情報発信で、米粉が国内自給可能な産業に成長していく一助となればと切に願っています。
引用文献
- 農林水産省「米粉をめぐる状況について」(2023)
https://www.maff.go.jp/kyusyu/seiryuu/komeko/attach/pdf/230307-3.pdf(PDF:1MB) - 農林水産省「米粉の用途別基準・用途表記」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/komeko/attach/pdf/index-56.pdf(PDF:409KB)