08米粉の種類と特性米粉の調理科学

農水省が策定した米粉の用途別基準には用途表記として、菓子・料理用、パン用、麺用があり、でんぷん損傷度はいずれも10%未満ですが、アミロース含量がそれぞれ20%未満、15%以上20%未満、20%以上と異なっています。
とくに、菓子用では15%未満のソフトタイプ、麺用では25%以上のハードタイプと用途別に細かく分類されており、アミロース含量の多少によって調理性や適した調理品が異なってきます。これは、小麦粉において薄力粉を菓子・料理用、強力粉をパン用、中力粉を麺用としているのと同じですが、小麦粉ではグルテン形成に関して主にたんぱく質含量で区別しているのに対して、米粉ではでんぷん含量は同じでも、その内訳としてアミロース含量で区別している点が異なります。
ここでは、著書の『クッカリーサイエンス011 米粉調理で広がる世界』※1から、用途別に米粉の調理性、調理法などについて述べますが、紙面の都合で一部となりますので、詳細は出典をご覧になってください。

菓子用・料理用用途

(1)天ぷら

1)おいしい天ぷらとは

天ぷら衣は、揚げる前の水分は60~70%ですが、揚げた後のそれは10~20%くらいに減っています。「カラリと揚がったおいしい天ぷら」では、揚げるときに衣の水分が出ていき、油が中に入る、という水と油の交代が十分に起こっています。

2)小麦粉と米粉の違い

小麦粉で作った衣は、加水後は時間とともにグルテンが形成されることで衣の粘性が高まるため水と油の交代が起こりにくくなってしまい、カラリと揚がりません。このため、天ぷらの衣は多少ダマができていてもできるだけ速やかに揚げることが推奨されています。
一方、米粉の衣はグルテン形成がないため、時間が経っても衣の粘性はほとんど変わりません。すなわち、米粉の衣は加水後の衣の状態が安定で、放置しても揚げるときに水と油の交代がうまくいってカラリと仕上がるということです。
小麦粉の衣では粉の1.6倍程度の水分を加えますが、同じ割合だと米粉は衣の粘性が低くなるので、0.9倍程度にすると粘性が高まります※2。また、米粉は小麦粉より油の吸収率が低いことも特徴であり、米粉の衣は揚げた後もサクサク感が長く続きます。

(2)クリームシチュー

1)ルーの調製

クリームシチューはまず、小麦粉でホワイトルーを作り、それを牛乳やスープでのばしてとろみをつける調理です。ルーは小麦粉を油で炒めたものですが、水を加えずに高温で加熱することで、でんぷんが一部分解するため、その後に液体を加えて加熱して糊化させる際に、粘りすぎないようとろみを調整する効果があります。

2)小麦粉と米粉の違い

小麦粉に液体を加える際にできるダマがグルテンの影響でつぶしにくいことがありますが、米粉ではそのようなことはなく、さらに、ルーを作らずに直接、具材を炒めているところに米粉をふりかけてスープで煮込むだけで、なめらかな口あたりのクリームシチューとなります※3。小麦粉でも直接ふりかけることはありますが、粉っぽさが残りやすいのに対して、米粉ではそれがなく、冷めても粘り増加などの変化が少ないのも特徴といえます。
クリームコロッケのように粉濃度が高いホワイトソースを作る場合は、米粉のほうが作った直後はやわらかいですが、翌日はかたくなって扱いやすくなり、米粉のなめらかな食感が好まれます※4

(3)スポンジケーキ

1)スポンジケーキの調製

スポンジケーキは、卵白を泡立て、砂糖を加えて気泡を安定にし、小麦粉を加えた生地をオーブンで焼きます。焼成中に気泡の一つ一つが熱膨張してスポンジ状に膨らむのですが、小麦粉を加えてからの時間が長くなるほど生地の粘りが増し、膨らみにくくなるので、粉を混ぜたらすみやかに焼く必要があります。

2)小麦粉と米粉の違い

米粉の生地は時間が経っても生地の粘りはほとんど変わりません。また、小麦粉生地より粘性が低く、さらに、粉を混ぜるときに気泡がつぶれにくいという特徴があります※5
同じ配合の小麦粉と米粉の生地各250gを160℃で焼くと、米粉では45分間、小麦粉では38分間と焼き時間は米粉のほうが長くなります※6。これは、米でんぷんのほうが糊化温度は高く、糊化しにくいためと考えられます。焼き時間が長くなると水分含量の低下や端部がかたくなったりするので、焼き時間を短くするにはロールケーキのように厚さが薄い生地が適しています。

(4)ドーナツ

ベーキングパウダーで膨らませたケーキドーナツは、油で揚げるのが一般です。小麦粉と同じ配合で米粉ドーナツを作ると、米粉のほうが小麦粉より多く吸水するため生地がかたくなり、うまくできません。卵や牛乳などで水分を増やすと揚げドーナツを作ることはできますが、それでもかためです。
そこで、米粉ドーナツ生地の水分をさらに多くしてやわらかい生地にし、それを型に絞り入れてオーブンで焼く「焼きドーナツ」にすることで、小麦粉揚げドーナツと米粉焼きドーナツは同程度のかたさやもろさが得られることがわかりました。
米粉焼きドーナツはモッチリとしており、好みはそれぞれですが、揚げる操作を伴わないという点では手間がかからないといえます。

(5)ビスケット

ビスケットは焼き菓子の一つで、水分が約3%と少ないことから保存食としても重宝です。このうち、薄力粉を使ったソフトビスケットがクッキーに相当します。
小麦粉と同じ配合で米粉クッキーを作ると、粉っぽく、ぱさぱさした生地になり、焼き上がったクッキーはやわらかくなります。そこに牛乳を加えてもかたさはほとんど変わりませんが、牛乳と砂糖を加えることでかたくなり、薄力粉クッキーに近くなります。米粉クッキーは小麦粉クッキーより甘さを感じにくいので、砂糖を増やすことは、かたさと甘味増加の両方に効果があります。米粉クッキーは焼き色が薄いので、大豆粉など他の粉を加えると焼き色が濃くなります。

パン用

1)小麦粉と米粉の違い

小麦粉パンでは加水量が粉の約60%であるのに対して、米粉パンでは100%前後と多くなるため、バッター生地となり、手で捏ねられないので型に入れて焼きます。また、米でんぷんのほうが糊化温度は高く、糊化に要するエネルギーも多いことから、焼き上がりまでの時間が小麦粉パンよりも長くなります。一方で、糖やアミノ酸組成が違うので焼き色が薄いのも特徴です。
焼き上がりの米粉パンは白っぽく、しっとりとモチモチ感のある独特の食感のパンになります。また、パンは焼いた後時間が経つとかたくなりますが、米粉パンは温めるのに蒸し器を用いるとやわらかくておいしく食べやすくなります。小麦粉パンでは蒸し器での再加熱は難しく、電子レンジで温めることがありますが、その際には再加熱後に起こる「パンの硬化」に注意しないといけません。米粉パンは放置によってかたくなりやすい一方で、再加熱を蒸して行えるのが特徴です。

2)米粉パンの膨化

米粉は小麦粉と同じ方法ではうまく膨化しませんが、加水量や焼き時間、添加材料の工夫で膨らみが良くなります※7。添加材料としては片栗粉のようなでんぷん、キサンタンガムのような増粘多糖類、でんぷんを含むイモ類、あらかじめ糊化させペースト状にした米粉などがあります。サツマイモはでんぷんを分解してマルトースを生成するβアミラーゼの活性が高く、マルトースは焼いた後の老化抑制に役立ちます※8。生地に添加する場合は生のイモをすりおろして用います。

麺用

(1)うどん

小麦粉で作るうどんは、生地の粘弾性を高めるために粉の約4%の食塩を加えて良く捏ね、生地をねかしてグルテン形成を促します。一般に適度な塩分濃度は約1%ですが、うどんを食べる際につゆを用いるのは、麺をゆでると加えた塩の90%がゆで汁に溶けだしているためです※9
一方、米粉うどんにはアミロース含量が多い麺用米粉を用い、つなぎの役割として片栗粉を用います。食塩は生地作りにとくに必要ではなく、少々加える程度です※3。米粉生地は小麦粉のときのような捏ね方ではなく、水がなじむように捏ねて全体をひとまとめにするだけで良いので、操作が楽といえます。生地が手にくっつかない程度にまとまれば、麺棒で薄く延ばすことができます。
ただし、折りたたむことは難しいので、生地を薄く延ばした状態で細く麺を切り出します。米粉うどんのゆで時間は2分程度で小麦粉うどんの10分前後より短いので、操作時間も含めて短時間でできる手軽な手づくりうどんが楽しめます。ゆでた後、冷水にさらすとモチモチ感のある米粉うどんとなり、冷やしても温かくしてもおいしく食べられます。

(2)ニョッキ

イタリア料理の一つであるニョッキは、ゆでたジャガイモやカボチャをつぶして小麦粉と卵を加えてつくるショートパスタの一種です。小麦粉では強力粉を用いるので、パン用米粉で作ります。
米粉ニョッキは6分くらいゆでますが、ゆで時間が長くなると生地の一部が溶けだすことがあるので、つなぎの役割をもつ卵の量を増やすと、ゆでた後のテクスチャーが腰が強くしっかりしてきます。米粉ニョッキは卵なしでも作れますが、卵を追加することで弾力性をもたせつつ、独特のモチモチ感が得られるので、小麦粉ニョッキとはまたひと味ちがうものが楽しめます※4

お茶の水女子大学 名誉教授 香西みどり

引用文献

  1. 市川朝子・香西みどり『クッカリーサイエンス011 米粉調理で広がる世界』建帛社(2023)
  2. 谷口明日香他「雑穀粉の基礎特性をふまえた天ぷら衣用バッターの調整条件」日本家政学会誌 60(4)217-224(2018)
  3. 高橋ヒロ『まいにち米粉 パンと料理とお菓子』池田書店(2022)
  4. 市川朝子「米粉の調理」日本調理科学会誌 50(6)280-282(2017)
  5. 野口聡子他「微細米粉を用いたスポンジケーキ調製時の粉合わせ程度が生地および製品に及ぼす影響」日本調理科学会誌 50(6)228-238(2017)
  6. 八木千鶴他「小麦粉ケーキとの比較による微細米粉ケーキの特徴」日本調理科学会誌48(2)112-121(2015)
  7. 藤井恵子他「絹フィブロインと複合化した米粉のスポンジケーキ調製とその特性」日本食品科学工学会誌 47(5)363-368(2000)
  8. 伊藤聖子「米粉パンの製パン性向上と老化遅延に関する研究」日本調理科学会誌 50(2)47-53(2017)
  9. 市川朝子他「手打ちめんのゆでによる脱塩について」家政学雑誌 35(2)69-75(1984)