08米粉の種類と特性米粉の種類と特性

米粉は、和菓子やせんべいといった食文化に密着した食品の原料として使われてきました。米と麦の加工品を比較するとき、粒食加工と粉食加工がよく取り上げられます。米の用途は粒食である米飯が圧倒的で、米粉の利用はごくわずかです。その理由は、米飯が「簡単に調理ができる」ことだといわれています。このことは、米粉が「製粉しにくい」ことの裏返しでもあり、米の粉食利用が難しい原因でもあります。また、米は小麦と比べて、「製粉しにくい」だけでなく「米粉加工品の日持ちが短い」ことも粉食のバリエーションが少ない理由です。
一般的な製粉で精白米を原料にする場合、米粉に求められる特性として、粒度と損傷度があります。米粉の欠点である硬化しやすい特性をカバーするために、生地の水分含量を高くする目的で保水性の高い粒子の小さい米粉が好まれます。また、損傷度が高い場合、生地の付着性が高まり作業性が低下します。それだけでなく、損傷部分は吸水速度、吸水量とも高いので未損傷の米粉の吸水、糊化を阻害します。その結果、製品の硬化が速くなってしまいます。

粳米・糯米と加熱・未加熱による米粉の分類

米粉は原料としてうるち(粳)米ともち(糯)米による分類、未加熱の米粉と糊化済の米粉(α粉)による分類がされています(図表1)。
また、以前はうるちの未加熱米粉のことを「新粉」と呼称していました。その後「新粉」のうち品質の良いものを「上新粉」というようになりました。現在、企業が製造している米粉は、ほとんどが高品質であることから、うるちで未糊化の米粉全般を「上新粉」と呼称するようになっています。
もち粉のなかでも細かいものは「求肥粉」と呼称されることがあります。白玉粉は求肥粉よりも細かく、でんぷん以外の成分の多くが流亡しているため上品な風味の製品に使われます。
アルファ型の米粉は、水を加えることにより糊になる特性を生かして多種の用途に用いられています。とくに、安定した粘度を保つことのできる、もち米由来の米粉が多く使われています。用途によって求められる粘度は違いますが、蒸したものは粘性が強く、煎ることで粘性が低くなる傾向があります。製品の着色程度や風味、粉の細かさで用途を変えています。

図表1 糊化・未糊化による米粉の製造工程による分類

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未糊化・糊化 米粉の種類 製造方法
うるち米 未糊化(ベータ型) 上新粉
  • ・洗米後、乾燥させてから製粉する乾式製粉
  • ・洗米浸漬、脱水後、製粉する半湿式製粉
  • ・洗米水切り後、製粉する湿式製粉
がある
上用粉 上新粉のなかでも非常に細かく製粉したもの
糊化(アルファ型) 上南粉 洗米・浸漬後米粒を蒸してから乾燥させたα化米を低温で平煎りしてから製粉したもので、粉にしてから煎ることもある
みじん粉 高温で平煎りした上南粉で焦げ色がついており、煎餅を製粉した「煎餅みじん」もある
早みじん粉 洗米後、乾燥させてから米粒を蒸さずに煎ってから製粉したもの
乳児・介護用粉 上南粉や寒梅粉の製法で作る場合が多くみられる
もち米 未糊化(ベータ型) もち粉
  • ・洗米後、乾燥させてから製粉する乾式製粉
  • ・洗米浸漬、脱水後、製粉する半湿式製粉
  • ・洗米水切り後、製粉する湿式製粉
がある
白玉粉 洗米・浸漬後水と一緒に石臼で挽き、できた乳液を沈殿、圧搾、乾燥させる
求肥粉 もち粉のなかでも非常に細かく製粉したもの
糊化(アルファ型) 道明寺粉 洗米・浸漬後米粒を蒸してから乾燥させたα化米
寒梅粉 洗米・浸漬後米粒を蒸してから餅を作り、焼いてから製粉したもの
上南粉 洗米・浸漬後米粒を蒸してから乾燥させたα化米を低温で平煎りしてから製粉したもので、粉にしてから煎ることもある
みじん粉 高温で平煎りした上南粉で、焦げ色がついている
早みじん粉 洗米後、乾燥させてから米粒を蒸さずに煎ってから製粉したもので、細かいものを落雁粉ということがある

製造機械による米粉の分類と特性

米粉を製造する機械の違いにより、製造した米粉の特性が変わります。製粉時には衝撃、圧縮、磨砕、せん断などの力がかかります。多くの工業的な製粉では洗米後、水に浸漬して米粒を軟らかくしてから付着水を取り除いて製粉する湿式製粉を行うことで細かい米粉を得ます。
どの機械により製粉するかで、米粉の粒度や物理的な損傷が異なるため米粉の特性が変わります(図表2)。
団子などの加工品で、いわゆる「コシ」があるものが好まれる場合、米粉業界では団子に「コシ」を出すために比較的粗い粉を配合することがよくあります。ユーザーの要望に合わせて、米粉の配合をするのが米粉製粉業のノウハウになります。

図表2 米粉製粉機

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製粉機の種類 製造方法 粒度 損傷 生産性
スムースロール 平滑な対のロールで米粒を圧縮し製粉 極粗
ブレーキロール 細い目が切ってある対のロールで米粒を圧縮、せん断して製粉
乾式石臼製粉 乾いた状態の米粒を回転石臼ですり潰すことで製粉
湿式石臼製粉 水と一緒に米粒を回転石臼ですり潰すことで得た乳液を搾ってから乾燥 極細
ピンミル 金属製のピンを立てた対のディスクを回転させた中に、米粒を投入し、ピンとの衝撃で製粉
ハンマーミル 回転軸に取り付けたハンマーで米粒を叩いた衝撃で製粉
スタンプミル 米粒を金属製の杵で圧縮製粉する。多くが多段連続式の杵で製粉 中~細
ブレードミル・ターボミル 回転体の気流で米粒を製粉する。熱上昇を抑えられる場合、損傷を低くできる 細~極細 中~小
ジェットミル 高速ジェット気流噴射による粒子同士の衝突や衝突版への衝撃で製粉 細~極細

(1)ブレーキロール製粉

生産性に優れることから米の製粉に多く使われるのは、ブレーキロール製粉による米粉です。製粉した後に60や80メッシュのふるいで粗い部分を除いているので粒度は150~100µm付近と60μm以下が多い2峰分布をしています。製粉原理的に細かい粉の製造は難しく、粒度を小さくしようとしてロールクリアランスを狭めすぎたりすると損傷度は20%を超えることもあります。

(2)ピンミル製粉

ピンミル製粉による米粉も製粉した後に篩で粗い部分を除いているので、粒度はブレーキロール製粉による米粉と同様の粒度分布をしています。これも、無理に粒度を細かくしようとしてスクリーンの目を細かくしすぎたり回転数を上げすぎたりすると損傷度が高くなります。

(3)その他の製粉機

ブレードミルやジェットミル製粉による米粉の特徴は損傷度が低く、60μm以下の粒度が小さい米粉が得られます。また、粗い米粉の画分が非常に少なく、製造後の篩別は必要ありません。多くの製品は損傷度5%以下に抑えたものが主流で、図表1の分類では「上用粉」にあたるものになっています。

米粉の成分と特性

(1)上新粉の成分特性

上新粉の場合、米粉加工品の品質に大きく影響する米粉の成分として、水分、タンパク質含有率、アミロース含量があげられます。

1)水分含有率

水分が高いと、生地を作るときに粉が水を弾くことなく良好に吸水されることが知られています。また、水分が高い米粉の方が米の風味を残しているともいわれています。反面、米粉を倉庫で保存するとき、水分が高いと米粉が早く傷みやすいという問題があります。このことから、米粉メーカーはユーザーの米粉用途を考慮し水分を調整した米粉を製造しています。

2)タンパク質含有率

タンパク質含有率も米粉加工品の品質に影響します。とくに、和菓子用途ではタンパク質含有率が高い米粉は焼き物では膨化が小さく、団子では着色が強い、雑味が強い、硬化が早いなどの理由で好まれません。

3)アミロース含量

アミロース含量は加工品の硬化性に影響します。デンプンの中のアミロース含量が多い米粉では、製品が早く硬くなってしまうことから一般に好まれません。

(2)もち粉・白玉粉の成分特性

もち粉・白玉粉の場合、(1)のタンパク質の影響を大きく受けます。そのほかに品種と産地の影響が大きいといわれています。これはもち米のデンプンの特性が品種と登熟温度によって大きく変わるからです。餅や米菓のように硬化させる必要のあるものでは硬化が早い原料、大福などでは硬化が遅い原料が好まれます。近年では気象変動による膨化不良、糊化不良、硬化が早い弊害が見られています。

新規用途米粉

ここでは、従来の和菓子用途以外の米粉と新しい微細米粉について説明します。先に述べたように、米粒は硬く米粉を細かくしにくい欠点があります。そのため、既存の米粉からパンを製造する試みは失敗していました。
そこで、米粒を軟化させる酵素を作用させてから製粉することで、無理な製粉による損傷を避けて製粉することができるようになりました。この米粉の粒子形状は丸く、製パン時に添加する活性グルテンとの親和性が良い米粉になっています。また、パンの適正加水量が少なくなっています。これは、生地の水分が高くパンが発酵中に自重で潰れる欠点をカバーしています。さらに、吸水速度が生地形成に適するようになることも利点です。
新規用途米粉は多くの企業が製造しているため、多様な特性の米粉が存在します。そのため、製造しようとする製品に適した粒度、損傷度、水分、アミロース含量などに気をつけて米粉を選ぶことが必要です。

玄米粉

玄米は栄養価にすぐれているものの、表面にワックス層があるため米粒の吸水が遅く、粗い粉になってしまいます。とくに、種皮、果皮が微細になりにくいという問題があります。さらに、油脂が多いため玄米特有の臭いがあることや酸化が進みやすい弱点があります。
そのため、玄米粉の多くは焙煎してから製粉しています。β型の米粉でこれらの弱点が克服できれば、素晴らしい食材になると予想されます。

新潟県農業総合研究所食品研究センター 穀類食品科 参事・穀類食品科長 宍戸功一