07米と環境、食文化米生産と地域振興活動

戦後、わが国では農村部から都市部への人口流出により、農村部における人口減少・高齢化が年々進行し、農業の担い手の減少、農業生産活動の低下、農村社会の活力低下といった問題が顕在化してきました。こうした傾向に歯止めをかけ、農村部の社会経済活動を再興するために、1980年代以降、さまざまな地域振興活動が行われています。本稿では、米生産と関連した地域振興活動のなかでも、地域で開催される祭りやイベントについて述べます。

1農耕儀礼としての祭り

地域に賑わいをもたらす祭りは、元は農耕儀礼として行われていたものが多くあり、現在でも全国各地に残存しています。わが国の米生産は、春先の播種・育苗に始まり、耕起・代かき、田植え、水管理・防除を経て、秋の稲刈、乾燥・もみすりに至り、作業を終了します。
これら作業の節目ごとに行われてきたのが稲作儀礼です。播種儀礼、田植儀礼、生育儀礼、収穫儀礼、予祝儀礼の5つの要素で構成され、農耕神=田の神をまつり、その年の豊作を祈願し、収穫を祝います。

1)播種儀礼

播種儀礼は、籾まきの際に苗代田の一部(水口・中央・畔)に自然木の枝や季節の花などを挿し、これに焼米・洗米を供えて田の神を祀るものです。自然木の枝は田の神の依り代とされています。

2)田植儀礼

田植儀礼にはサナブリがあり、田植の手伝いをしてくれた人を招いて催す宴をサナブリブルマイと呼びます。また、楽器の演奏にあわせて田植唄を唱和しながら苗を挿す、大田植、花田植もあります。

3)生育儀礼

生育儀礼は、虫送りや雨乞いがあり、稲作の成長過程に予測される自然災害を防ぎ、稲の生育を守るための呪術的儀礼です。

4)収穫儀礼

収穫儀礼は、穂掛け、刈り上げがあり、収穫開始前と開始後に行われる儀礼です。収穫に感謝し翌年の豊作を祈願する収穫祭として、神社の秋祭りとも関連を持ちながら行われる場合もあります。

5)予祝儀礼

予祝儀礼は、1月上旬から中旬(小正月前後)に行われ、稲作の栽培過程を模擬的に行うなどして当年の豊作を祈願する儀礼です。

2地域振興としての祭り

稲作儀礼と祭りは、近代化や農村部の人口減少・高齢化によって次第に消滅しつつありますが、一方で地域において脈々と伝承されている活動もあり、また、一度は途絶えたものの地域振興を目的として活動が再開される動きもみられます。
1980年代以降の地域振興活動の盛り上がりの中で、これまでの儀礼的な活動とは異なり、米生産と関連したイベントとしての地域振興活動がみられるようになりました。たとえば、「あきたこまち」の産地である秋田県大館おおだて市では、炊き立ての飯をつぶして円筒形にして焼いた郷土食である、きりたんぽをテーマに、毎年秋に「本場大館きりたんぽまつり」を開催し、県内外から多くの来場者を集めています。
また、「コシヒカリ」の産地として名高い新潟県南魚沼市では、地域の飲食店において南魚沼産「コシヒカリ」を使用した各種のどんぶりを一定期間販売する「本気丼(マジドン)」という食イベントを毎年開催し、人気を博しています。さらに、水田をキャンバスに見立て、色彩の異なる複数の稲を使って絵や文字を表現する、田んぼアートの取組みが青森県田舎館いなかだて村で始められ、現在では年間30万人以上の来場者を集める一大イベントに成長し、同様の取組みが全国20カ所まで拡大しています(執筆時点)。
こうした地域振興活動により、農村部における関係人口が拡大するとともに、米の消費拡大、ひいては米の生産振興につながることが期待されます。

女子栄養大学 栄養学部 准教授 平口嘉典

参考文献

  1. 伊藤幹治『稲作儀礼の研究』而立書房(1974)
  2. 倉田一郎『農と民俗学』岩崎美術社(1969)
  3. 小川直之『日本歴史大辞典』(稲作儀礼)小学館(2007)

参考ウェブサイト

  1. 大館食の祭典協議会(2024年2月18日アクセス)
    https://odate-foodfes.com/
  2. 南魚沼・本気丼((一社)南魚沼市観光協会)(2024年2月18日アクセス)
    https://majidon.jp/
  3. 田舎館村田んぼアートオフィシャルサイト(青森県田舎館村企画観光課商工観光係)(2024年2月18日アクセス)
    http://www.inakadate-tanboart.net/