07米と環境、食文化米と食料安全保障
1食料自給率と食料安全のリスク
(1)食料を輸入に依存する日本
日本は食料自給率が低く、食料安全保障上のリスクを抱えています。そうしたなかで米は国産食料の中核をなしており、備蓄や緊急増産といった不測時の対策においても枢要な役割を有しています。
日本の供給熱量ベースの総合食料自給率は38%(2021年度、以下同じ)です。さらに、穀物自給率は29%にとどまっています。こうした値は多くの先進国と比較して低いだけでなく、このように食料を輸入に依存しているのは人口1億人以上の国のなかで日本だけです。
その大きな理由は、日本の農地が不足していることです。日本は人口一人当たりの耕地面積が人口1億人以上の国のなかでもっとも少ないのです。農地の絶対量の不足に加えて、農地の希少な国では経済成長とともに農業の国際競争力が顕著に低下し、そのため貿易の自由化とともに食料の輸入が拡大する傾向にあります。現在、日本は日本の国内農地面積の2倍に相当する食料や飼料を輸入しています。
(2)米自給の意義
食料自給率が低下してきたなかでも、米はおおむね自給を維持しています(自給率98%)。米は日本の主食であり、その消費量は小麦を上回っています。食料による国民一人当たりの熱量供給2,265kcalのうち、米は481kcalで21%を占めます。これは、上記の供給熱量ベースの総合食料自給率(38%)のうち55%に当たります。米は単独で自給熱量の過半を担っているのです。
それ以外の主なカロリー源である小麦や家畜の飼料、油、砂糖はいずれも主に輸入によって賄われています。
2不測の事態への備え
多くの食料を輸入に依存する日本にとって、主要輸出国の不作や、輸送の混乱、輸出規制、国際紛争といった不測の事態による輸入の減少リスクは大きな問題であるため、米など穀物を中心として平時から備えがなされています。
短期的な事態には備蓄の放出による対応が想定されます。備蓄には米、小麦、飼料穀物(トウモロコシなど)があります。米については100万t程度の政府備蓄が維持されており、これは国内年間生産量の12%に相当します。それに加え、必要に応じて66万tの飼料用米を食用に転用することも検討できます。
さらに、長い期間にわたり不足が生じる場合には、国内で生産の転換が行われます。食料自給力指標の試算によると、熱量供給を重視して米と麦を中心に増産を行えば、国内で必要量の8割程度を生産できる可能性があります。それでも足りない場合には、いも類を増産すればさらに引き上げが可能です。ただし、燃料や肥料などの資材が十分にそろっていることが前提となるため、原油の備蓄なども重要です。
3農地を維持活用し生産力確保
水田稲作と米需要のあり方は、今後の国内生産力にも大きな影響を与えます。水田稲作は日本農業の基礎であり、多くの農業者が米を作付けしています。水田は236万haあり、耕地面積の54%を占めています。
国内生産力を確保するうえでは、限られた農地を維持活用することが重要です。しかし、現実には耕作放棄地が増えています。大きな要因の一つは、米の需要が長期にわたり減少していることです。一人当たりの米消費量が60年にわたり縮小し続けていることに加えて、人口の減少によって今後も米の需要は減少が続くと見込まれます。
かつて戦前の日本は食用米の生産が十分でなく、2割程度を輸入していました。飼料を本格的に増産する余裕はなく、飼料用トウモロコシには無関税輸入措置が明治期以来設けられていたのです。戦後、1961年の農業基本法は「農業の選択的拡大」政策を打ち出し、農業政策は米の国内生産を維持する一方、それ以外の穀物や大豆を輸入に委ねる方針を取りました。ところが、やがて米の単収が向上し、食生活が多様化して米需要が減ったため米は生産過剰傾向となり今日にいたっています。
今後は米以外のトウモロコシ、麦、大豆といった作物の面積を拡大するとともに、米の需要を下支えすることができれば農地の維持につながります。日本産の米は生産費が高いため輸出量は限られており、国内需要の掘り起こしが重要です。需要のある外食や加工食品向けの品種や契約栽培、利便性の高いパックライス、あるいは飼料米・飼料稲や、米粉向けの利用もそうした下支えに貢献しています。
参考文献
- 農林水産省「令和3年度食料需給表」
- 農林水産省「令和4年度食料自給力指標について」
- 農林水産省「作物統計調査 令和5年耕地面積(7月15日現在)」
- 平澤明彦「世界の情勢変化と日本の食料安全保障―パンデミックとウクライナ紛争を踏まえて―」『農林金融』76(6), pp.2-28,(2023年6月)