06米の加工品米ぬかとこめ油

こめ油とは

(1)原料の米ぬか

米ぬかは、米の精米( 搗精 とうせい )工程で発生する副産物です。玄米表面のぬか層(果皮・種皮・糊粉層)および胚芽の部分を削り取ったもので、通常の精米では、玄米重量の10%ほどが発生します。米ぬかに含まれる約20%の油分を抽出・精製したものがこめ油ですが、玄米あたりのこめ油の収量にすると約1%しかなく、貴重なプレミアムオイルとされています。国内の植物油脂のほとんどが輸入原料に依存するなかで※1、「国産原料」による生産を行い、食料自給率の向上に貢献するという点において、ほぼ唯一の油といえます。
こめ油の観点から、米ぬかは取扱いが難しい原料です。精米工程で米ぬかが発生した直後から、米ぬかに含まれる油分は酵素(リパーゼ)の影響により速やかに加水分解されます※2。この特性は、最終的なこめ油の品質や収率を悪化させ、製造コストを押し上げる原因となっています。とくに、気温や湿度が高くなる環境では影響が大きくなり、年間を通して原料の品質は大きく変動します。良い品質の原料を得るには、発生後の米ぬかを可能なかぎり早く抽出にかけ、粗油(原油)とすることが重要です。玄米流通が主流の日本では、全国各地にて発生する米ぬかの集荷体制の構築が、こめ油の製油会社にとっての課題となっています。
ところで、精白米と比べた玄米の健康増進の効果について数多くの報告がありますが、米ぬかには多種多様な機能的な栄養成分(食物繊維、機能性脂質・たんぱく質、ビタミン、ミネラルなど)が含まれています。米ぬかを原料とするこめ油には、玄米由来の特徴的かつ機能的な脂質成分が抽出・濃縮されており、一般的な植物油と異なるさまざまな特徴を有しています。

(2)こめ油の利用

こめ油の特徴を述べると、1)特徴的な機能性成分と、2)優れた酸化安定性・調理適性の2点があげられます。近年は、健康を意識した消費者ニーズの高まりから、こめ油に含まれる機能性成分が注目されたことをきっかけに、家庭用においてその市場規模を大きく伸ばしています※3。また、酸化しにくく風味が良いという優れた調理適性については長らく評価されており、加工食品メーカー(ポテトチップス、かりんとう、米菓など)、レストラン、高級料亭、学校給食など、業務用において幅広く利用されています。

こめ油の機能性成分

前述のとおり、こめ油には玄米由来の特徴的かつ機能的な成分が豊富に含まれています。本項では、その中から代表的な成分について説明します。

1)γ-オリザノール

米に特徴的な高い生理活性をもつ成分で、一般的な植物油には含まれていません。医薬品成分として知られており、脂質代謝改善や自律神経調節など、機能的な作用が数多く報告されています。また、酸化防止、紫外線吸収、皮脂腺賦活、メラニン生成抑制などの効果から、食品や化粧品にも広く使用されています。

2)トコフェロール・トコトリエノール

トコフェロールは、植物油に含まれる代表的な抗酸化成分で、体内の脂質の酸化を防止することで細胞の老化を抑えるといわれています。こめ油には、α-トコフェロール(ビタミンE)が多く含まれています(図表1)。そのうえ、トコフェロールと比べて数十倍の抗酸化力をもつといわれるトコトリエノール(スーパービタミンE)が含まれています(図表2)。
多様かつ豊富なこれらの抗酸化成分が、こめ油の高い酸化安定性に寄与していると考えられます。

図表1 植物油のビタミンE含量

植物油のビタミンE含量
資料:築野食品工業(株)分析データ

図表2 植物油のトコトリエノール含量

植物油のトコトリエノール含量
資料:築野食品工業(株)分析データ

3)植物ステロール・トリテルペンアルコール

植物ステロールは、コレステロールに類似した構造をもつ成分で、摂取したコレステロールの体内への吸収を阻害し、血中コレステロール値を抑える働きがあります。こめ油にはとくに豊富に含まれています(図表3)。
こめ油に特徴的な成分であるトリテルペンアルコールは、植物ステロールとの相乗的なコレステロール低下作用に加えて※4、肥満や高血糖に対する効果についても報告されています※5

図表3 植物油の植物ステロール含量

植物油の植物ステロール含量
資料:築野食品工業(株)分析データ

こめ油の使い方

家庭の一般的な食用油の使い方といえば、フライ・唐揚げ・天ぷらなどの揚げ調理、肉・野菜などの炒め調理がまずは思い浮かぶことでしょう。しかしながら、オリーブ油やアマニ油などの市販の油種の多様化にともない、和える・かける・混ぜるなど、高温で加熱しない、あるいはごく短時間しか加熱しない使い方が消費者に浸透してきました。
一方、業務用の加工食品の原材料として利用される食用油には、加熱安定性、保存安定性、物性改良、風味など、加工食品の分野に応じた複雑な要求があります。本項では、こめ油の使い方とそのメリットについて、さまざまな用途に分けて紹介します。

(1)高温調理

油の代表的な使い方です、揚げる・炒めるといった高温調理では、油は急激に酸化され、最終的に異臭、泡立ち、着色などが発生します。こめ油と一般的な植物油(菜種油)を加熱劣化(180℃、48時間)させたときの品質について比較した結果を図表4~5に示します。
油の酸化劣化臭に関与する代表的なニオイ成分として、プロパナール(青臭いにおい)とアクロレイン(刺激臭、いわゆる「油酔い」の原因成分)の発生量を調べると、こめ油の方が少なくなっていました(図表4)。これは、調理中のにおいが気にならず、揚げ物の風味も良いことを示します。泡立ちに影響する粘度の変化を見ると、こめ油の方で増加量が少なかったことから、調理中にも泡立ちにくいといえます(図表5)。

図表4 油の加熱時のにおい発生量

油の加熱時のにおい発生量
資料:築野食品工業(株)分析データ

図表5 油の加熱時の粘度変化

油の加熱時の粘度変化
資料:築野食品工業(株)分析データ

天ぷらなど日本料理では、濃い味付けを避けながら素材の味を活かすため、使用する油の風味はとくに重要とされます。前述のこめ油のにおいの少なさは、風味の良さの一つの裏づけといえます。別の実験として、こめ油と菜種油を使って調理したニンジンの素揚げを味覚センサーにより比較したところ、こめ油の方が「味の濃さ」が強くなっていました(図表6)。これも同様に、こめ油を使うと素材の味が活かされ、邪魔しないことを示唆すると考えられます。

図表6 味覚センサーによる素揚げニンジンの評価

味覚センサーによる素揚げニンジンの評価
資料:(株)味香り戦略研究所 分析データ

(2)長期保存

近年の食品業界においては、持続可能な開発目標(SDGs)に関連した食品廃棄ロスの削減に向けて、食品の品質とおいしさをより長期間にわたって維持する技術開発が求められています。常温下の長期保存を想定した試験では、菜種油と比較してこめ油の方が酸化しにくく、また、におい成分の発生量も少なくなっていました(図表7)。油脂を原材料に含む加工食品では、その油脂の酸化安定性が製品全体の保存安定性にも影響するため、この結果を応用できると考えられます。

図表7 長期保存時のPOVおよびにおい発生量の推移

長期保存時のPOVおよびにおい発生量の推移
資料:築野食品工業(株)分析データ

(3)調 合

食用油脂の業界では、2種類以上の油種を混合して各油脂の特徴を合わせた「調合油」としての利用が幅広く行われています。こめ油についても同様ですが、さまざまな用途に使われるそれら調合油がこめ油の特徴をどの程度発揮できているのか、その詳細については不明な点が多くありました。
こめ油の調合比率と保存温度条件との関連性について調べると、180℃(高温調理を想定)および40℃(常温保存を想定)の各温度において酸化防止効果が確認されましたが、意外にも40℃では、少量のこめ油であっても顕著な効果を発揮しました(図表8)。この結果は、使用用途と配合量の適切な選択によって、こめ油の利用価値がよりいっそう広がる可能性を示しています。

図表8 菜種油に対するこめ油の調合比率とにおい発生量の関係

菜種油に対するこめ油の調合比率とにおい発生量の関係
資料:築野食品工業(株)分析データ

(4)製菓・製パン

製菓・製パンの原材料の油脂は、最終製品のテクスチャーや風味などにおいて重要な働きを担っています。γ-オリザノールは乳化作用を有しており、シュー皮の油染みやスポンジケーキの柔らかさおよび口当たりを改善できる点も報告されています※6
さらに、γ-オリザノールを加熱するとバニリンと呼ばれる香気成分により甘い香りが発生します。焼き工程のある菓子やパンにこめ油を使用することで甘い香りが立ち、酸化しにくいこめ油の性質とも相まって、風味良く仕上げることができるということも報告されています。
こめ油の新しい価値が提案されていくと同時に、米の消費拡大への一助となることを期待します。

築野グループ(株)

引用文献

  1. 農林水産省「令和3年 油糧生産実績調査」
  2. 高野克己、日本食品工業学会誌36.6:519-524(1989)
  3. 日本食糧新聞12271号(2021.8.4)
  4. 渡辺早苗、他、日本栄養・食糧学会誌 40.4:263-270(1987)
  5. 下豊留玲、 岡原史明、オレオサイエンス17.6:269-276(2017)
  6. 特許文献 特許第6629395号