06米の加工品包装容器から見たパックご飯

「パックご飯」は、(一社)全国包装米飯協会によれば、「無菌包装米飯」と「レトルト米飯」からなります。
「無菌包装米飯」については、お米を炊飯するまでに、短時間高温加熱殺菌、超圧力殺菌等の独特の無菌化を施したのち炊飯し、無菌化状態のクリーンルームで密封包装したものをいいます(たとえば、白飯や雑穀米飯等があり、品質を保つためph調整(酸味料)を添加している製品もある)。
「レトルト米飯」については、調理したごはんを、密封した容器に入れて圧力をかけ、加熱殺菌(121℃、4分以上)したものをいいます(たとえば、赤飯、味付けご飯、具入りごはん、おかゆ等)。「無菌化」という言葉は聞きなれないと思われますが、「無菌にしようと思ってもなかなか無菌にするのが難しい」固形食品を(商業的な)無菌状態の包装製品にしようとすることを意味しています。
「無菌化」(Semi-Aseptic)という言葉は、クレハ元研究所長の横山理雄先生が命名されました。これが液体食品であれば、熱交換器で高温のチューブを通して簡単に高温殺菌で無菌にすることができ、無菌充填包装(Aseptic-Filling Package)の飲料を作ることができるのですが、固形物では、そうはいきません。現在では、スライスハムやスライスチーズなどの無菌化包装食品が製造・販売されていますが、完全には無菌にできないため、畜産製品であれば低温流通が、米飯やもち・半生菓子類などでは脱酸素剤・脱酸素容器などが必要になります。

飲料の無菌充填包装と固形食品の無菌化包装

(1)飲料の無菌充填包装

液体食品の無菌充填包装技術といえば1951年にスウェーデンで開発されたテトラパックで、紙容器が使われました。翌52年には日本に技術導入され、55~56年には学校給食用の牛乳などに三角形(正四面体)のテトラパックが用いられました。無菌充填に使われる熱交換器は、戦後間もない1949年にアメリカからすでに導入されています。
飲料の無菌充填では比較的容易に商業的無菌状態を作ることができますが、固形食品の無菌化はそれほど簡単ではありません。まず、食品自体の無菌化が必要であり、次いで包装過程での二次汚染を防ぐことが必要であり、さらに残存する微生物の増殖を防ぐことが必要であるからです。

(2)もちの無菌包装技術

無菌包装米飯が上市される前に、無菌包装もちが上市されました。現在の包装もちは、カビの生育を防ぐために脱酸素剤とガスバリアー包材(バリアーナイロン)が使われていますが、無菌包装もちが上市されたのは1976年で、脱酸素剤が上市される77年の前年のことです。それゆえ、無菌包装もちの開発はガス置換包装を前提としており、大変であったことがうかがえます。

1)板もちの開発

もちの包装に使われる包装資材から見ると、1957年に耐熱性があり異臭のないポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)フィルムが上市され、その袋に搗きたてのもちを入れて板状に伸してから加熱殺菌する「板もち」が開発されました。この製品が上市されたのは64年のことです。板もちは画期的で、お正月にしか食べられなかったもちが一年中いつでも食べられるようになりました。しかし、板もちは製品の水分が均一であり、みそ汁などに入れると表面が溶けたり、腰や粘りが弱くなったりと、もちとしてのおいしさがあまりないというのが最大の欠点でした。

2)真空包装もちの登場

そこで、切りもちをできるだけ長く保存したいという願望に、私たちもいろいろチャレンジしました。その後、切りもちをナイロン袋で真空包装する製品が上市され、裸では5日程でカビが生える切りもちが、2週間ほどカビが生えずに日持ちしました。私たちはこれを「密着効果」と称しました。

3)無菌包装もちの開発

その後、1976年に「無菌包装もち」が佐藤食品工業所(現サトウ食品)から上市されました。この技術を開発したのは米どころ新潟県の食品研究所です。同研究所は米を原料にした製品の研究開発では日本を代表するところで、斎藤昭三先生という有名な所長がおられました。板もちを開発されたのも斎藤先生で、抗菌性のある甘味料のグリシンをもちに少量添加したのがミソでした。
新潟県食品研究所が「無菌包装もち」の開発に取り組んだのは、まず、もちに生える微生物の研究からです。もちの微生物は、1)とり粉から来る乳酸菌、2)土壌からの汚染であるシュードモナスとエルビニア、3)土壌由来の耐熱性細菌である枯草菌(バチルス・ズブチリス)です。1)2)は、汚染源を断ち加熱殺菌すると解決できますが、3)は耐熱性のため、原料の米から取り除く必要がありました。そこで、搗精とうせい段階を変えてバチルスの残存菌数を見ると、搗精歩留りが88%以下で耐熱性菌がいなくなることを見出し、搗精度を段階的に上げて耐熱性菌数をゼロにする方法が開発されました。また、古米になると耐熱性細菌が増えることも明らかにしました。これによって、耐熱性菌のいない新しいもち米を蒸して細菌汚染のないもちを作り、無菌の包材を使い無菌環境下で包装することにより無菌包装もちを生産する技術(図表1)と、一つひとつ個包装し、これを大袋に入れる包装もちが開発されました。図表1では、無菌包装もちや無菌包装米飯の技術開発がよく説明されています。
この技術がベースになり、ハイバリアー包材(KOP)の袋に脱酸素剤を入れる形の包装もちが80年代以降たくさん市販されるようになり、本格的に年間を通しておいしい切りもちが食べられるようになりました。

図表1 包装切りもちの保存性

包装切りもちの保存性
資料:江川和徳『食品包装便覧』p1046(1988)

無菌包装米飯の開発

耐熱性菌のいない米を小さな釜で炊飯し、無菌になった米飯を無菌環境下で包装するシステムが開発され、パックご飯(無菌包装米飯)が上市されたのは1987年であり、無菌包装もちの上市から約10年の歳月が経過していま
最初に無菌包装米飯を発売したのは、無菌包装もちを上市したサトウ食品です。バリアー性のプラ容器に脱酸素剤が入っている形態で、脱酸素剤を除いてから電子レンジで加熱します。それが、89年に酸素を吸収する脱酸素容器(オキシガード、東洋製罐)が開発され、今では電子レンジ加熱の前のひと手間もなくなりました。今日も、そのおいしさと保存性が担保されています。
その後、越後製菓、エスビー食品、テーブルマーク、東洋水産など、多くのメーカーがこの市場に参入し、新しい製造法も次々と開発され、商品も、白飯はもとより赤飯、玄米、雑穀入り、もち麦入り、かゆ製品、ダイエット食や病態食などにも普及し、製品の多様化が進んでいます。
便利で、おいしく、いつでもどこでも食べられ、災害用のローリングストックにも使えるパックご飯は、コロナの巣ごもり生活時代になり、国内でも売上げを伸ばしています(図表2)。

図表2 無菌包装米飯の生産量

無菌包装米飯の生産量
資料:(一社)食品需給研究センター

賞味期限を延ばす技術開発

近年、訪日外国人が多くなり、日本のおいしいご飯が知られる機会が増え、海外からも引っ張りだこになっています(図表3)。ここで問題になるのは、パックご飯の賞味期限です。透明なバリアー包材を使っている無菌包装米飯は、ハイバリアー包材EVOH(エチレン・ビニルアルコール・コポリマー)の水蒸気透過により重量が減少します。日本の気候では、冬場の一時期を除いて平均湿度は70~80%で、冬場には50~60%にもなります。こうなると、水分活性の高い米飯は、包装を通して常に水分が逃げて重量が減少することになります。実は、無菌包装米飯の賞味期限を決めるのはこの重量減少であり、ご飯を加熱したときの水分不足によるパサつきなのです。ということから、現状の10カ月~1年からできれば1年半位まで賞味期限を延ばす必要があります。そこで必要になるのは包装改善であり、水蒸気透過性の少ないセラミック蒸着系の透明包材を用いる技術が開発されています。こうすれば、時間のかかる輸出のサプライチェーンのなかでも賞味期限内に食べてもらうことができるのです。
賞味期限がさらに延長されれば、また、生産体制が増強されれば、さらに輸出が促進され、日本のおいしい米の用途がいっそう拡充されるものと大いに期待されます。

図表3 パックごはんの輸出量

パックごはんの輸出量
資料:財務省「貿易統計」
(一社)日本食品包装協会 理事長 石谷孝佑

引用文献

  • 江川和徳『包装切り餅の保存性』食品包装便覧p1046-1058(1988)
  • 田辺利裕『無菌包装米飯』包装技術便覧p237-241(2019)
  • 農業協同組合新聞「パックごはんの輸出好調」(2023年2月)