06米の加工品多様化する米飯非常食

拡大する非常食市場

頻発する自然災害やコロナ禍で在宅避難する人の増加などを経て、非常食の購入層は行政や企業に個人ユーザーが加わりました。市場規模は17年の159億円から21年には312億円(矢野経済調べ)と大きく拡大(図表1)。これにともない、専業メーカーの商品も、アルファ化米やレトルト米飯などカロリー摂取が目的の炭水化物中心から、日常食としてのおいしさや栄養バランスを備えたものへと多様化しています。最近では、地球環境への配慮やアレルギーや高齢者など災害弱者への対応、外国人を意識したハラール認証商品など多様性を重視し、SDGsの観点からも訴求を強めています。

図表1 非常食の市場規模

防災食品の市場規模
資料:矢野経済研究所調べ
注:メーカー出荷ベース。2021年度は見込み値、26年度は予想値。

近年の非常食商品

(1)環境に配慮した商品

非常食最大手の尾西食品は2022年、包材資材に再生プラスチックを取り入れ、非常食初のエコマーク認定を取得しています。環境省のエコアクション21活動を通じた取組みにより、23年春には、生物由来資源を使用することでプラスチック量を現行比40%も削減した環境配慮型エコマーク取得スプーンに切り替えました。また、同社製品の3分の2以上がアレルギー対応、半数以上がハラール対応商品となっています。
商品としては、人気カレーチェーンとタッグを組んだ「CoCo壱番屋監修 尾西のカレーライスセット」や、業界初のレトルト汁物とのセットアップ商品「一汁ご膳」などを発売し差別化しています。その他、個人ユーザーの購買に対応し、より便利に身近な商品へと進化を図り、業界初のレンジアップ可能な「レンジ+(プラス)アルファ米」シリーズを発表しました。電子レンジ対応で5年以上の長期保存が可能な容器がポイントです。従来の保存性が高いアルミ蒸着フイルムから、3年以上をかけて容器メーカーと共同開発したレンジ対応遮光性フイルムに切り替えました。既存品と同じくお湯や水を加えても食べられますが、電子レンジ調理の方がうまみや香り、味がアップするということです。

(2)要配慮者対応商品

アルファー食品は災害時の要配慮者の食事に配慮し、全商品で特定原材料等28品目不使用商品となっています。なかでも22年秋に発売した「北海道産ほたて貝柱のおかゆ」は、水や食器、調理不要で温めずそのまま食べられるなど非常食としての機能に加え、要配慮者にも対応しています。同品は、日本介護食品協議会が進めるユニバーサルデザインフードの「舌でつぶせる」に相当します。
同社ではほかにも、GABAやビタミンB1、B2などを配合した健康配慮型商品や、ハラール商品をラインアップ。加えて、一部商品で賞味期限の延長やバイオマスインキの採用、表示の多言語化などにも取り組んでいます。

(3)食品ロスに配慮した商品

精米関連機器最大手のサタケは、独自のコメ加工技術によるアルファ化米「マジックライス」シリーズを展開しています。2022年に保存期間を5年から7年間に延長し、調理時間を15分から7分に短縮した「ななこめっつ」シリーズを新発売しました。防災備蓄が進むなか、更新の際に発生する廃棄問題解消に貢献するためです。さらに、多くの商品で「量が多すぎる」問題にもいち早く対応し21年、出来上がり120~130gの「ミニシリーズ」を投入。この「ななこめっつ」も同200gでおにぎり2個分の食べきりサイズとしています。
米穀業界からは、幸南食品が人気のカップおかゆで包材にもみ殻由来の紙素材を採用した「お茶碗がいらない一膳お粥」シリーズを発売しています。同品は年間200万tも出るもみ殻のアップサイクルに貢献。長期的な保存ができるものではありませんが、日常的に食べながら保存できるローリングストック商材として期待されます。

(4)利便性あるセット商品

米関連商品と飲料水中心に食品事業を担うアイリスフーズは、2021年に「低温製法米アルファ化米」シリーズで非常食市場に参入しました。自社生産と、販売先のホームセンターチャネルとの太いパイプを強みに拡大しています。プラスチック製品が強みの同社だけに、懐中電灯や衛生用品など防災グッズも混載した「防災リュック」も発売しました。同品は令和6年能登半島地震を契機に、ネット検索が急増しているといいます。

(株)日本食糧新聞社 ビジネスサポート本部 佐藤路登世