06米の加工品無洗米~精米の加工技術~

無洗米の歴史

(1)無洗米の始まり

無洗米に関する研究は、戦前から農林省食品総合研究所などを中心に続けられていたといいます。当時は、米栄養成分の水洗による損失を避けることが狙いでした。
「無洗米」という言葉について詳しいことは定かではありませんが、佐竹製作所(現サタケ)の二代目社長・佐竹利彦氏が「近代精米技術に関する研究」のなかで、「無洗米とは研がずに水を加えただけで炊飯できる米」と記したことが始まりとされているようです。それまでは「米を研ぐ・洗う」意味の「淘」を使って「不淘精米」と呼ばれていました。
精米を無洗化処理しようとする研米機は、すでに昭和初期から作られています。これは、皮革や布、刷毛を使用し、白米の表面を研磨してぬかを除去するもので、従来酒造米の淘精工場で洗浄の労力を軽減するために利用されていたといいます。これが一般精米工場でも利用されるようになり、精米の外観を良くすると同時に、付着ぬかを除去して貯蔵性を高める目的で使用されるようになりました。しかし、性能や耐久性に問題があり、普及にはいたりませんでした。

(2)無洗米の普及

1)湿式研米機の発売

この後も研究が続けられ、1975(昭和50)年佐竹製作所から加湿精米機「クリーンライト」が発売されました。加湿して研米する湿式研米機で、75年代には大型精米工場を中心に約900台設置されるなど普及しました。
当時の文献によると、すでに無洗米には乾式と湿式があることや、無洗米化することにより、1)炊飯の簡便化、2)洗米による排水汚染の低減、3)精米の外観の向上、4)精米の貯蔵性の向上が実現できることが記されており、現在とほとんど一致しています。しかし、当時の技術では、まだ研がずに炊けるところまでは到達していなかったといいます。

2)水洗式製法の開発

1991年、東洋精米機製作所(現東洋ライス)により、新たな無洗米製造設備として、水洗式とぬかでぬかを除去する「BG製法」が相次いで開発されました。米の表面にははちの巣のような小さな孔が多く空いており、そこに粘着性のぬかが詰まっていることを発見。このぬかを除去することで「4~5回洗った(研いだ)米と同程度に、ほぼ完全にぬかが除去できている米」の商品化にいたりました。しかし、同社は水洗式製法で特許を取得したものの、汚水処理の問題が解決できなかったため商品化されず、BG無洗米のみ商品化したのでした。
佐竹製作所もこの年、水洗式無洗米「ジフライス(JF)」を発表。さらにバージョンアップさせ1997年に「スーパージフライス(SJR)」を開発し、2000年には、「TWR」を発表しました。

被災地支援物資として活躍

(1)業務用用途としての普及

BG製法やJFなど本格的な無洗米設備が開発されて以来、無洗米は下水道代や人件費でコスト削減に寄与するとして、業務用を中心に普及してきました。
さらに、米の研ぎ汁による環境負荷の少ない米として、1997年頃から首都圏の生協が無洗米の本格的な取組みをスタートさせ、家庭用市場にも急速に広がりました。

(2)被災地支援物質としての利用

BG無洗米は1995年頃から毎年2倍ずつ生産量が拡大しましたが、2001年頃からは、米の消費減や米価下落が原因で、低成長となっていました。
そのような中、研ぎ洗い不要の無洗米などは、東日本大震災が発生した際に、被災して充分に水道環境が整わない地域でも炊飯できる貴重な支援物資として脚光を浴びたのでした。最近では、SDGsの観点から注目され、2022年度の生産量は40万tとなっています。

製造方法

無洗米の製造方法は、湿式、乾式、媒体式の3タイプに大別されます。湿式は、サタケのJF、SJRがトップシェアを占めています。使用する水の量が米重量の15%と少量で済みます(図表1)。
乾式には、クボタのリフレや山本製作所のカピカなどがあり、ブラシ式のナイフで米の表面を削って製造します。完全にぬかを除去しにくく、現在はあまり使われていません。
媒体式では、東洋ライスのBG製法(図表2)と、サタケの「ネオ・ティスティ・ホワイト・プロセス(NTWP)」製法(図表3)があります。東洋ライスでは、精白米の表面にある無数の溝に詰まっている粘着性のあるぬかを「肌ぬか」と称しており、BG製法では肌ぬかを除去します。NTWP製法のTWR(ティスティ・ホワイト・ライス)は2001年に特許を取得しています。

図表1 スーパージフライス(SJR)方式

スーパージフライス(SJR)方式
水を加圧することにより表面や溝に残っているぬかを瞬時に洗い落とすと同時に、水が浸透する前に温風で瞬時に乾燥できる。

図表2 BG 製法

BG 製法
精白米の表面の肌ぬかを、同じ肌ぬかの粘着性を利用して吸着させて取り去る。

図表3 ネオ・ティスティ・ホワイト・プロセス(NTWP)方式

ネオ・ティスティ・ホワイト・プロセス(NTWP)方式
米を加水処理した後、タピオカを主成分とした熱付着材を利用してぬかを除去する。

環境に配慮する米

現在、地球環境に優しい無洗米を通じてSDGsを推進する動きが活発化しています。
東洋ライスはBG無洗米の開発を通じて、洗米に必要な水(米の10~20倍)や上下水道代・人件費の削減効果などに加え、製造時のエネルギー使用量が少ない点や米のとぎ汁による水質汚染の防止、副産物の肌ぬか由来の「米の精」による循環型農業の実現など、地球環境保全の側面で普及活動を続けています。こうした活動は社会的にも評価されており、SDGsのうち9目標に寄与できる米としての認知度向上に努めています。
さらに、同社では、次世代無洗米として、精米工程で白米部分とぬか層の間にある「亜粉糊層」を残して白米より栄養価と食味を高めた「金芽米」や、玄米表層部にある「ロウ層」のみを均等に削ることで、玄米の食べにくさや炊飯しづらさ、消化面での難点を解消した「ロウカット玄米」も開発し、健康志向のニーズに応えています。
一方、サタケは、最新の加工技術を導入した新型無洗米製造装置を開発し、超微小気泡「UMB水」と洗米・脱水工程を2カ所に設けた「マルチパス方式」を採用しました。これは、おいしさの向上のほか、CO2の排出量の70%以上削減や約50%の節水効果、SDGs目標10項目に該当などの環境への貢献、栄養豊富なとぎ汁を養豚業などへ液体飼料として食品リサイクルできるという特徴があります。

(株)日本食糧新聞社 ビジネスサポート本部 佐藤路登世

参考文献

  • 日本食糧新聞社 編『食品産業事典』(2013)