05米の食味と評価官能評価による判別方法
1官能評価と意義
官能評価は、炊飯したご飯を人間が五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)を駆使しながら食べて食味を評価した結果を統計学に基づいて解析する方法で、ヒトが感じる食味を直接的に評価できる評価方法です。視覚では白さ、艶、粒形、嗅覚では風味(新米)、聴覚では噛むとき無音、味覚では甘みとうま味、触覚では粘りと硬さを判断します。
食味の構成要素である甘味・うま味・硬さ・ねばり・香り・外観等を客観的に判断できるまでの訓練されたパネラーによって強弱を客観評価されますが、定量的に数値化することができない点もあります。たとえば、甘いスープを作るときに塩を入れた場合と入れない場合とを比べると、機器測定による甘味度は同程度であっても、実際に食べた感じでは、塩入りの方が甘く感じるということです。
2標準的な官能評価方法
日本の官能評価方法は、1960年に旧農林省食糧庁で定めた「米の食味試験実施要領」による方式が標準的であります。現在でもこの実施要領に準じた方法が活用されています。
この評価方法は相対評価方法で、写真1に示したように、基準品種を含めて1回に4点の供試米を約50gずつ4種の色による印をつけた白色皿(径25cm)に盛りつけて評価を行う方法です。この方式は年齢構成や性別に関する条件を満たした24人の食味試験実施者(パネリスト)の自主判断により、検定米自体の客観的な評価を得るために処理名や銘柄名を隠して、外観、味、香り、粘り、硬さおよびそれらを総合した総合評価の6評価項目別に評価尺度で評点をつけます。
写真1 基準品種を含めた4点比較法
(1)評価項目別の着眼点
基準米に比べて、外観はご飯の白さ、光沢の良否や粒形の整否を判断します。味はいわゆるご飯の甘みやうま味で、喉ごしの感じの良い滑らかさ、噛んでいるうち感じるわずかな甘みに着眼して判断します。香りはご飯特有の新米の香りの有無を評価します。粘りはご飯の粘りの強弱を判断します。硬さはご飯の硬軟の程度を判断します。
総合評価は供試米の食味の良否を総合的に判断するもので、単なる各評価項目の合計ではありません。一般に食味が良い/悪いという評価は、この総合評価の値が高いか低いかで判断しています。なお、評価に当たっては試料が変わるごとに、水またはお湯で口の中をすすぎます。
(2)評価尺度
図表1の官能評価用紙に示したように総合評価、外観、味、香りを-3(かなり不良)から+3(かなり良い)、粘りを-3(かなり弱い)から+3(かなり強い)、硬さを-3(かなり軟らかい)から+3(かなり硬い)の7段階で行います。0は基準米と同じです。
図表1 官能評価調査用紙
±3の「かなり」は1回目の試食で明確な違いがあると確信できる場合です。±2「すこし」は1回目の試食で明確な確信はないが、ある程度違いがわかる場合です。±1「わずかに」は1回目の試食ではっきりせず、2回目の試食(二口目)で違いがわかる場合です。「基準米と同じ」は2回目の試食でも違いの有無の判断に迷う場合です。
(3)基準米(品種)
食味試験は基準米からの偏差で食味の値を測っており、収量や形態の値と違って絶対評価ではありません。このためデータの信頼性の確保や比較論議するうえでの汎用性をもたせるという点で基準米の選定はきわめて重要であります。
近年は消費者の良食味米志向により市場評価が高く、全国作付面積も第1位である「コシヒカリ」が基準米に採用されている事例が多くなっています。
3官能評価の実施にあたって
(1)試料の搗精と保存
1)搗精
搗精は玄米粒厚1.8mm以上に選別された玄米を用いて、搗精歩合90~91%を目標として搗精します。
2)保存
食味試験用の試料は、収穫後の食味試験前日までは温度10℃、相対湿度60~70%にて冷蔵保存しておくことが好ましいとされています。室温下での保存は害虫、カビの発生を招くとともに遊離脂肪酸の酸化により品質が劣化します。
(2)炊 飯
1)洗米
水が十分入った容器内でほぼ濁りがなくなるまで米をとぎます。回数は3回程度で十分です(写真2)。
写真2 米のとぎ洗い
2)水切り
とぎ後はすばやくステンレス製ザルにあげて水切りをします。時間は5分間です(写真3)。
写真3 ザルによる水切り
3)加水量
炊飯釜に米を入れて、事前測定した精米の水分含有率に対応した水を加えます。加水量については、算出早見表を図表2に示しました。たとえば、精米500gの水分が14.2%の場合は、表中の区分6(測定水分にもっとも近い区分を使用)の計算式を適用して、加水量は500g×1.28=641ccとなります。
図表2 加水量の早見表
区分 | 精米の 水分含有率(%) |
精米300g当たり 加水量(cc) |
計算式 |
---|---|---|---|
0 | 11.3< | 414 | 精米(g)×1.380 |
1 | 11.5 | 409 | 精米(g)×1.364 |
2 | 12.0 | 404 | 精米(g)×1.347 |
3 | 12.5 | 399 | 精米(g)×1.331 |
4 | 13.0 | 395 | 精米(g)×1.315 |
5 | 13.5 | 390 | 精米(g)×1.299 |
6 | 14.0 | 385 | 精米(g)×1.282 |
7 | 14.5 | 380 | 精米(g)×1.266 |
8 | 15.0 | 375 | 精米(g)×1.250 |
9 | 15.5 | 370 | 精米(g)×1.234 |
注:区分適用として0.1と0.2は0に、0.3と0.4は0.5に含める。
4)炊飯
炊飯は同等の性能を有する電気炊飯器を使用し、同一条件で炊飯します。
5)吸水時間
電気釜に入れて30~40分間浸漬します。
6)蒸らし
スイッチが切れた後、20分間蒸らします。
(3)試料の盛り付け
1)釜内のかき混ぜ
底に近い箇所や周囲に近い箇所の炊飯米が混ざらないように、全体をかきまぜた後に盛り付けを開始します。
2)試料の盛りつけ量
「赤」「黄」「青」「緑」の4種の色による印をつけた白色皿(径25cm)に供試米を約50gずつ盛り付けます。ただし、基準米は少し多めに盛り付けます。
3)試料温度
盛り付け直後の試料は熱いことと、盛り付けの時間差による試料間の熱度に差があるため、試料間差が識別しにくくなっています。このため、試料間の熱度の差をなくして、試料間の違いをより明確に識別するために盛り付け後20分程度、冷まします。
4パネルの選定と管理
信頼性の高いデータを得るためには、その目的にかなった人を選ぶこと、すなわちパネル(panel:官能評価を行うために選ばれた人たちの集団)の選定が必須条件です。
(1)パネリストの条件
優れたパネルを要請するためには、適確な判断ができるパネリストを確保することが必須となります。パネリストになるための条件は、健康的で、官能評価に興味や意欲があり、同じパネリストであることです。
(2)パネルの管理
パネルが官能検査に対して、興味や参加意欲を失わせないような配慮が必要で、次のような方策を講じます。
- 支障のない範囲で、当日行う官能検査の目的・内容を明らかにして、その日のうちに結果をパネリストにフィードバックします。
- 官能検査終了後パネリスト間でのサンプル評価は厳に慎みます。
- 計画しているすべての官能検査が終了した後は、日頃のパネル業務に対して感謝と謝辞をパネルに表します。
(3)パネルの配置
パネル各人の表情や言動の影響を避けるため対面着席は避けます。また、周囲環境の影響を避けるため、衝立を設置することが望ましいです(写真4)。
写真4 衝立をした食味官能評価
5少数パネル、多数試料による官能評価方法
現在、米の食味が重視されている関係で食味評価用の検定材料が増加しています。このため、食糧庁方式による常時24名のパネリストによる4点比較法では、パネル確保の困難性と食味試験の長期化を招くことから一定期間内で食味試験を完了させることが難しくなっています。このような状況においては、1回の食味供試点数を10点に増やし(写真5)、しかも、基準よりパネリストの数を減らした16名前後とした少数パネル、多数試料による食味官能試験方法(松江 1992、松江ら 2003)が効果的です。ただし、この試験方法では精度の高い識別能力を有しているパネリストを確保しておくことが必須条件であります。そのためには、つねに各パネリストの識別能力と嗜好性を把握して、結果の信頼度を明らかにしておくことが重要です。
写真5 基準品種を含めた10点相対比較法
識別能力と嗜好性の解析方法は次のとおりです。
(1)パネリストの識別能力
3回の反復した試験結果から、パネリストごとに品種を要因として一元配置分散分析を行い、各人が判定した試料間差が有意かどうかを各人ごとに検定を行います。この分散分析の5%F値を各パネリストの試料間差識別の可否の指標とします。識別能力の具体的な計算例を図表3に示しました。
図表3 識別能力の計算例
(2)パネリストの嗜好性
人間が食味評価の良否を判断する際には、識別の判断とは別に好き嫌いという嗜好性がともないます。このため的確な評価をするうえで嗜好性を把握しておくことはきわめて大切です。ここでの嗜好性とは、各パネリストが判定した評価が全体の判定評価と同じか異なるかを示すもので、相性が良いか悪いかということです。
検定試料についての総合評価値を用いて、全パネリストの平均値と各パネリストの判定平均値との相関係数をパネリストごとに計算します。この値が1に近ければそのパネリストの評価は全体の平均に一致し、0に近ければ全体の平均とは異なることを示します。この相関係数の値は、全パネリストが平均的に良い、または不良と判定した試料を、該当のパネリストが同様に良い、または不良と判定したかどうかを示すもので、この値を各パネリストの嗜好性を表す指標とします。具体的な計算例を図表4に示しました。
図表4 嗜好性の計算例
(3)識別能力と嗜好性との関係
各パネリストの識別能力と嗜好性との関係図を図表5に示しました。図中Aに分布するパネリストは、識別能力があり、嗜好性もパネルと一致していることを表しています。Bに分布するパネリストは、識別能力はあるが、嗜好性はパネルと一致しないことを示しています。たとえば、「コシヒカリ」は明確に識別できるが、嗜好性からは嫌いであるというパネリストです。
図表5 パネルの識別能力と嗜好性との関係
Cに分布するパネリストは、識別能力はないが、嗜好性はパネルと一致していることを表しています。Dに分布するパネリストは、識別能力はなく、嗜好性もパネルと一致しないことを表しています。いずれにしてもCとDに分布するパネリストはパネルとしては不適格者であるため、食味評価の訓練が必要となります。
引用文献
- 松江勇次「少数パネル、多数試料による米飯の官能検査」日本家政学会誌 43:1027-1032(1992)
- 松江勇次、佐藤大和、尾形武文「良食味水稲品種における少数パネル・多数試料による米飯の食味評価」日作紀 72:38-42(2003)
- 大坪研一監修『米の機能性食品化と新規利用技術・高度加工技術の開発』(松江勇次「米の食味官能評価」(p69-74)エヌ・ティ・エム(2023)
- 松江勇次『作物生産からみた米の食味学』養賢堂 1-141(2012)
参考文献
- 古川秀子『おいしさを測る-食品官能検査の実際-』幸書房 1-140(1994)
- 日本フードスペシャリスト協会 編『食品の官能評価・鑑別演習』建帛社 1-221(2000)
- 食糧庁『米の食味試験実施要領』1-27(1968)