05米の食味と評価米の食味の理化学評価

米の食味とその評価

(1)米のおいしさ

近年の消費者の良食味志向を受けて、生産、流通、炊飯・加工の各段階で米の食味・特性評価法の開発が求められています。米の食味には、品種、産地、気候、栽培方法、収穫・乾燥、貯蔵、精米、炊飯・加工等のさまざまな要因が影響するとされています。
日本人は一般に、軟らかくて粘りの強い米を好みます。米のおいしさは、人間の「視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚」という五感に訴えるものであり、白飯の場合には、「色が白く、つやがあり、粒の形が良く、風味があり、温かく、ご飯粒が滑らかで柔軟で、粘りと弾力がある」米飯が好まれます。
ただし、ヒトが感じる最終的な「おいしさ」とは、食味の他に価格・経験・感情・一緒に食卓を囲む相手・その場の雰囲気などが複雑に絡み合って認知されるものです(図表1)。本章では、米の食味という観点では上図を用い、おいしさという観点では、この総合的複雑に絡み合った評価を指すものとします。
米の食味評価項目としては外観、味、香り、硬さ・粘り等があげられ、米の評価方法には官能検査と理化学測定があります。図表2に官能検査と理化学測定の例を示します。

図表1 おいしさとは

おいしさとは

図表2 お米の食味に関する官能検査と理化学測定の例

お米の食味に関する官能検査と理化学測定の例

(2)官能検査の特徴

官能検査は、米の食味のもっとも基準的な評価方法といえます。人間が視覚、味覚、嗅覚、触覚等の感覚器を客観的センサーとして評価を行うので、「食味が良いか否か」といった評価に加えて、甘味の強弱・香りの強弱・硬さの強弱等の項目別にも官能による客観的評価が得られるという利点があります。
一方、官能検査は、訓練されたパネラーを一定数以上確保する必要があります。

(3)理化学的測定の特徴

理化学的測定では、米の成分や米飯の物理的特性等、官能検査結果と相関の高い特性を定量的に測定することによって食味を推定します。問題点としては、測定項目がおおむね単一であり、官能検査のような複数項目を一度に評価ができないこと、食味の推定については、あくまで各種の測定値に基づく推定値であって官能検査のようなヒトが感じる食味を直接的に評価できないことがあげられます。
一方、特長としては、試料量が少なくて済むこと、測定者が少人数で済むことがあげられます。さらに、理化学測定値は、条件さえ揃えれば地域差がなく、国内はもとより、外国でも日本でも共通の値が得られるという定量性も利点としてあげられます。

食味関連成分および特性の理化学測定

(1)アミロ-ス含量

米の主成分はでんぷんであり、でんぷんは、グルコースがほとんど枝分かれせずに重合したアミロ-スと枝分かれしながら重合したアミロペクチンとから構成されます。もち米はアミロースをほとんど含まず、日本の一般的な米は約20%、インディカ米は30~35%であり、アミロース含量が高いほど米飯が硬く、粘りが少なくなります。アミロース含量はヨウ素比色法、オートアナライザー法※2、電流滴定法、酵素クロマト法等により測定します。
また、アミロースのみならず、アミロペクチンの分子鎖長分布が食味に影響するとの報告が増加しており、北海道農試の五十嵐らは、分光測定による新しいでんぷん構造解析と米食味評価技術を開発しました。また、当研究室の中村らは、ヨード呈色多波長走査分析による新しいアミロース含量やアミロペクチン中長鎖、難消化性でんぷんの簡易推定技術を開発しました。

(2)たんぱく質含量

わが国では、たんぱく質含量が高い米ほど食味は低下するとされています。これは、わが国の炊飯方式が炊き干し法であるため、少量の水をでんぷんとタンパク質が取り合うことになり、高たんぱく質の米ではでんぷんの吸水・糊化が妨げられるためと考えられています。
最近では、たんぱく質の総量のみでなく、たんぱく質の分子組成も重要であることが報告されています。たんぱく質総量はケルダ-ル法、燃焼式窒素定量装置、近赤外分光分析法等により測定され、分子組成は電気泳動法、抗原抗体法、多段階溶出法によって測定されます。

(3)その他の成分

水分、脂質、ミネラル含量、少糖類、単糖やアミノ酸なども食味と関係があるとの報告があります(図表3)。脂質がリパーゼによって分解されて生じる遊離脂肪酸の量(脂肪酸度)は、古米化の指標として重視されています。

図表3 各種の機器を用いる米の食味の多面的理化学測定の例

各種の機器を用いる米の食味の多面的理化学測定の例

(4)精米粉末の糊化特性

アミログラフやラピッド・ビスコ・アナライザー(RVA)によって、糊化特性試験が行われ、わが国では、最高粘度が高く、ブレークダウンが大きく、最終粘度の低い米の食味が好まれるとされています。
また、弁当やおにぎりのように、炊飯後に時間が経過した後に食べる場合には、糊化でんぷんの老化が問題となります。糊化特性値のコンシステンシー(最終粘度-最低粘度)は、でんぷんの老化しやすさの指標として適しており、「冷やご飯指標」と呼ぶこともできます。筆者らは、RVA による糊化特性測定値の多変量解析に基づいて米飯物性や米飯老化性を推定できることを示し、当研究室の中村らは、RVAの新しいパラメーターを用いて、試料米のアミロース含量、アミロペクチン中長鎖の割合、難消化性でんぷん含量等を推定できることを明らかにしました。

(5)米飯物性

わが国では、粘りが強く、軟らかい飯が好まれる傾向にあります。岡部らは、テクスチュロメーター等の物性試験機を用いて、米飯の硬さと粘りを測定し、バランス度(粘り/硬さ)が米飯の食味や新古の評価指標として適していることを提案しました。一方、岡留らは、テンシプレッサーによる低圧縮試験、高圧縮試験、連続圧縮試験により、品種・栽培による米飯物性の相違を検出できることを報告しています。
最近、動的粘弾性測定装置による米飯物性の測定も行われています。

(6)物理化学的測定結果の総合解析

稲津は、北海道産米の食味改善を目的に、たんぱく質とアミロースの両方を低くする良食味育種を提唱し※2、竹生らは、全国産米の理化学測定値(精米タンパク質、炊飯液ヨード呈色、糊化特性値)の重回帰分析により、次年度産の未知試料米に対しても高精度の食味推定式を作成しました※2※4
筆者らも北陸農試育成米の官能検査に対して、理化学測定値(たんぱく質、膨張容積、加熱吸水率、糊化ブレークダウン、動的弾性率、動的損失)を用いた推定式を作成しました※3。また、小西らは、米の食味を外層部スクロース、L値、アミロース比の3変数でよく説明できることを報告しています※4

(7)近赤外分光分析と食味評価装置

近年、測定対象に近赤外線領域の光を照射し、水分やたんぱく質等の成分を非破壊的に測定する方法が開発されました。この原理を応用して米の複数の成分や特性値を同時に測定し、官能検査結果に対する較正式を作成した、いわゆる「食味計」が登場し、その使用例が増加しています。
また、近赤外分光法以外の原理に基づく食味評価装置(味度メーター:炊飯後の米粒表層の「保水膜」の測定)も開発され※5、生の米ではなく、米飯を試料とする炊飯食味計も登場しています※6

(8)その他の物理化学的測定

米飯の重要な品質要素の味やにおいも、電気的手法によって客観的に測定する装置が開発されました。九州大学の都甲らが開発した「味センサー」や各社のにおいセンサーがこれにあたります。最近では、新潟県の育成した「新之助」や秋田県の育成した「あきたこまち」などの食味特性を明示するために利用された例があります。
また、「においセンサー」は、ヘッドスペース法やSPME法で捕集したにおい成分を導電性ポリマーや金属酸化物の半導体センサー等で検出し、コンピューターで解析するものであり、今後の米品質評価への適用が期待されています。
さらに、LCMSなどの分析技術の向上により、米や米飯の香気成分の解析も進展しています。

食味研究の今後の課題

近年、米の品質や食味への関心は世界的に高まりを見せています。食味研究の進展のなかで、わが国の米の品質・食味における新しい品質・食味評価技術の開発がますます必要とされています。わが国では、消費者の良食味志向に対応して、全国でコシヒカリレベルの良食味米系統が育成されてきました。
今後は、こうした近縁の良食味米同士の微妙な相違を検出できる高精度の評価手法の開発が求められるとともに、多様化する調理や用途に応じた多面的な手法も必要となります。

新潟薬科大学 特任教授 大坪研一

引用文献

  1. 竹生新治郎「稲と米」(p.130)農研センター・生研機構(1988)
  2. 稲津 脩 北海道立中央農試報 66号1(1988)
  3. 大坪研一ほか 北陸農業の新技術 No.6,19(1993)
  4. 小西雅子ほか 調理科学 29,264(1996)
  5. 雑賀慶二「米の食味評価最前線」(p.181)全国食糧検査協会(1997)
  6. 三上隆司 食科工 47(10)787 (2000)