04米の機能性米タンパク質の基本的性質とその機能性

米は重要なタンパク質供給源

米の主要な成分はデンプンであり、日本を含むアジア圏の人々にとって、もっとも重要なエネルギー供給源となっています。一方、米の第二の成分であるタンパク質については、その含量がおよそ6%程度とデンプンと比較してきわめて低いこともあり、日本ではタンパク質供給源としての価値は軽視されがちでした。
ところが、食が多様化し、米の摂取量が減少している現在においても、米は肉類や魚介類に次ぐ3番目に重要なタンパク質の供給源であり、日々の摂取量は機能性食品素材としての認識が高い大豆を含む豆類の約2倍となっています(20~29歳)※1。このような重要性もあり、米タンパク質の高付加価値化につながる新規機能性を探索する動きが起こりつつあり、いくつかの報告がなされるようになっています。
本稿では、主にわれわれ日本人が普段摂取する胚乳部のタンパク質について焦点を当て、その基本的特性だけでなく機能性についても紹介していきます。

2米タンパク質の基本的特性

胚乳部に存在するタンパク質の大部分は、種子発芽時の窒素供給源として利用される貯蔵タンパク質と呼ばれるタンパク質で占められています。これらのタンパク質はプロテインボディ(PB)と呼ばれる構造物に蓄積することが知られており、米の場合はその由来や蓄積するタンパク質の種類が異なる2種類のPBが存在しています。
液胞にタンパク質が蓄積し形成されるPB-IIには塩溶液可溶性のα-グロブリンや希酸/希アルカリ可溶性のグルテリンが蓄積し、小胞体に直接タンパク質が蓄積し形成されるPB-Iにはアルコール可溶性のプロラミンが蓄積します。また、これら2種類のPBでは消化性においても違いがみられ、炊飯処理後のPB-Iは難消化性に変化し、PB-IIではそのような変化がみられず易消化性であることが報告されています※2

3米胚乳タンパク質(REP)の機能性

(1)REPの精製

動物実験や臨床試験などで米胚乳タンパク質(REP)の機能性を評価し、REPを使用した商品を開発する際には、REPの精製物が必要となります。現在までに報告されているREPの調製方法として、水酸化ナトリウムによりタンパク質を溶解させ回収するアルカリ抽出法※3と耐熱性α-アミラーゼによりデンプンを加水分解し、タンパク質を回収するデンプン分解法※4の2種類が存在します。これら2種類のREP精製物では、タンパク質の組成には大きな違いはみられないものの、その消化性が大きく異なっていることが知られています。
アルカリ抽出REP(AE-REP)では、ほぼすべてのタンパク質が完全に消化されるのに対し、デンプン分解米胚乳タンパク質(SD-REP)では、プロラミンの消化性が大きく低下することが報告されています※5
このような消化性の違いは、難消化性タンパク質による腸内細菌そうへの影響など機能性に大きく影響することが予測されるため、目的に応じたREPの選択が重要となってきます。これまでに報告されている機能性の多くはAE-REPを使用したものであり、SD-REPを使用した機能性研究は非常に限定されています。しかし、近年になりSD-REPが市販されるようになり、機能性食品素材の1つとしてさまざまな食品へ利用する土台ができつつあります。このようなことから、今後のREPの機能性研究の対象が、AE-REPではなくSD-REPが中心になることが期待されています。

(2)REPのコレステロール低下作用

MoritaらはAE-REPとSD-REPの両方を用いた検討を行っており、AE-REPおよびSD-REPの両方がコレステロール低下作用を有していることを示しましたが、SD-REPが糞中へのステロイド排泄促進作用を介しているのに対し、AE-REPではそのような作用はなく別経路を介してコレステロール低下作用を発揮している可能性を報告しました※6。またYangらは、AE-REPの摂取が高コレステロール飼料を摂取させた成長期ラットならびに標準飼料を摂取させた成熟期ラットにおいて、血漿中および肝臓中コレステロールレベルを有意に抑制させ、その抑制作用はコレステロール抑制作用がすでに報告されている大豆タンパク質と同程度であることを報告しました※7
このような報告から、2種類のREPは脂質代謝改善作用を有していることが示されたものの、その作用メカニズムには違いがみられ、その違いにはプロラミンの消化性の違いが影響している可能性も考えられています。

(3)アルカリ抽出REP(AE-REP)の健康機能

1)AE-REPの抗肥満作用

上述したコレステロール代謝への影響以外に、AE-REPが肥満に与えるについても興味深い報告がなされています。Higuchiらは、3週齢のマウスに標準飼料を6週間(juvenile period)摂取させた後に、高脂肪飼料(脂質含量30%)を12週間(adult period)摂取させる試験を行いました※8
その結果、juvenile periodにおけるAE-REPの摂取が、高脂肪飼料摂取後の体重増加抑制、血清脂質パラメータおよび耐糖能の改善など、肥満の進行により増悪するさまざまなパラメータを改善させることを明らかにし、AE-REPが肥満や肥満によって引き起こされる障害を抑制する機能を有していることを報告しました。

2)AE-REPの糖尿病性腎症進行遅延作用

肥満は糖尿病の代表的な危険因子であることから、抗肥満作用を有するAE-REPは糖尿病に対しても何らかの有益な作用を有している可能性が期待されました。
Kubotaらは非肥満2型糖尿病モデルGoto-Kakizakiラットを用いた検討を行い、AE-REP摂取が血糖値調節には明確な改善作用を示さなかったものの、糖尿病腎症の早期診断マーカーの1つである尿中アルブミン排泄を有意に抑制することを示し、AE-REPが糖尿病性腎症進行遅延作用を有している可能性を示しました※9
さらに、肥満2型糖尿病モデルZucker Diabetic Fatty(ZDF)ラットを用いた検討から、AE-REPの摂取がヘモグロビンA1c濃度を有意に抑制し、尿中アルブミン排泄や腎組織障害を有意に改善することが示され、AE-REPが糖尿病や糖尿病性腎症の進行遅延作用を有していることが報告されました※10

3)AE-REPの肝臓中脂肪蓄積抑制作用

また、ZDFラットは著しい脂肪肝を呈することから肝臓への脂肪蓄積に対する影響についても評価したところ、AE-REP摂取により肝臓への脂肪蓄積が有意に抑制され、肝臓中カルニチン濃度が有意に増加していることが示され、AE-REPが脂肪酸β酸化系の亢進を介した肝臓中脂肪蓄積抑制作用を有していることが推察されました。

4)AE-REPの作用メカニズム

上述したようにAE-REPが糖尿病に対して有益な効果を有している可能性が報告されているものの、その作用メカニズムについては十分には明らかとなっていません。しかしIshikawaらは、AE-REPの加水分解物の投与がインクレチン作用を有する血漿中glucagon like peptide-1(GLP-1)濃度を有意に上昇させるだけでなく、GLP-1を不活化させるdipeptidyl peptidase-IV活性を有意に抑制させることを示し、AE-REP加水分解物が最終的に血漿中の活性型GLP-1比率を上昇させ、食後の血糖値上昇を抑制させる作用を有している可能性を報告しました※11
このような報告から、先に述べたAE-REPの糖尿病進行遅延作用は、GLP-1分泌促進作用を介している可能性が期待されました。

以上のようにAE-REP は、肥満や脂質異常症などメタボリックシンドロームを抑制する作用を有しているだけでなく、生活習慣病の1つである糖尿病やその合併症の進行遅延作用を有していることが明らかになりつつあります。
今後は食品への利用の可能性が高いSD-REPについても、さまざまな機能性が報告されることが期待されます。

新潟工科大学 工学部 教授 久保田真敏

引用文献

  1. 厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」(2019)
  2. Kubota M, et al.“In vivo digestibility of rice prolamin/protein body-I particle is decreased by cooking.”J Nutr Sci Vitaminol(Tokyo)60: 300-304(2014)
  3. Kumagai T, et al.“Production of rice protein by alkaline extraction improves its digestibility.”J Nutr Sci Vitaminol(Tokyo)52: 467-472(2006)
  4. Motira T and Kiriyama S.“Mass production method for rice protein isolate and nutritional evaluation.”J Food Sci. 58: 1393-1396(1993)
  5. Kubota M, et al.“Improvement in the in vivo digestibility of rice protein by alkali extraction is due to structural changes in prolamin/protein body-I particle.”Biosci Biotechnol Biochem. 74: 614-619(2010)
  6. Morita T, et al.“Rice protein isolates produced by the two different methods lower serum cholesterol concentration in rats compared with casein.”J Sci Food Agric. 71: 415-424(1996)
  7. Yang L, et al.“Effect of rice protein from two cultivars, Koshihikari and Shunyo, on cholesterol and triglyceride metabolism in growing and adult rats.”Biosci Biotechnol Biochem. 71: 694-703(2007)
  8. Higuchi Y, et al.“Rice endosperm protein administration to juvenile mice regulates gut microbiota and suppresses the development of high-fat diet-induced obesity and related disorders in adulthood.”Nutrients. 11: 2919(2019)
  9. Kubota M, et al.“Rice protein ameliorates the progression of diabetic nephropathy in Goto-Kakizaki rats with high-sucrose feeding.”Br J Nutr. 110: 1211-1219(2013)
  10. Kubota M, et al.“Rice endosperm protein slows progression of fatty liver and diabetic nephropathy in Zucker diabetic fatty rats.”Br J Nutr. 116: 1326-1335(2016)
  11. Ishikawa Y, et al.“Rice protein hydrolysates stimulate GLP-1 secretion, and lower the glycemic response in rats.”Food Funct. 6: 2525-2534(2015)