03米と健康米とスポーツ栄養

スポーツに必要な栄養

(1)身体作りの基本はエネルギー

スポーツ※1をする人たちにとって大切なことは、健康な身体を作るともに、食事から必要なエネルギー、栄養素を取り入れることです。健康な身体作りのためにはたんぱく質、カルシウムなどが豊富な肉類や卵、牛乳・乳製品などの摂取が重要視されることが多いと思います。とくに、スポーツ選手へのアドバイスでは筋肉との関係でたんぱく質の重要性が強調される傾向にあります。
しかし、身体作りの基本になるのはエネルギーです。筋肉を増やしたい場合でも、たんぱく質だけではなく、エネルギーとなる炭水化物の摂取は必要です。さらに、スポーツで身体を動かすためにもエネルギーは欠かすことができません。車のガソリンに相当するのがエネルギーと考えることができます。

(2)炭水化物は即効エネルギー源

私たちが摂取する栄養素のなかでエネルギー源になるのは、たんぱく質、脂質、炭水化物の3種類です(アルコールもエネルギー源になりますが、栄養素では無いのでここでは割愛します)。このなかで主にエネルギー源として利用されるのは、脂質と炭水化物です。なかでもエネルギー源として重要なのは炭水化物※2です。
炭水化物は素早くエネルギーとして利用されます。しかし、炭水化物は身体の中に多くは貯蔵できないという特徴があります。したがって、毎日、毎食摂取し、補充する必要があります。スポーツ選手にとっては、どのような場合でも炭水化物を摂取するようにしたいものです。

米をベースとした食事

(1)食事バランスが良くなる

炭水化物は米(ご飯)やパン、麺類などから供給されますが、米(ご飯)をベース(主食)にした食事は、おかず(主菜・副菜)を組み合わせることによって食事全体のバランスが良くなるという特徴があります。主食を米にして、肉や魚、野菜や果物、牛乳・乳製品などを組み合わせると、エネルギーと必要な栄養素を確保することが容易となります。いわゆる「定食スタイル」ですね。

(2)必要なエネルギー量を調整しやすい

米(ご飯)は、粒食であることから自分に合った量を食べることができ、また、多彩なおかずとの組み合わせ等についても自分の好みで選択することができるため、必要なエネルギー量を調整しやすいという特徴があります。身体を大きくしたい成長期には、米(ご飯)の量を増やすと良いでしょう。
男子の高校野球選手や高校ラグビー選手では、1日の摂取エネルギーを5,000kcalに設定することがありますが、その場合、炭水化物は米の量で約6合の摂取が勧められることもあります。米6合は、めし(ご飯)約2,000gとなります。1回に約700gのめし、どんぶり2杯程度ですが、この量を食べるためには、おかずを上手に組み合わせる必要があります。この組み合わせによってエネルギーと必要な栄養素を摂取することができます。
めし(ご飯)だけを食べる、あるいは肉だけを食べる、などの偏った食事は勧められません。

(3)カーボローディング

マラソンやトライアスロンなどの持久系のスポーツでは、試合前に炭水化物の摂取量を増やすカーボローディングあるいはグリコーゲンローディングという食事方法が行われます。これは、通常よりも炭水化物の摂取量を増やして、体内のエネルギー(グリコーゲン)を多くしておくという食事方法です。
この場合も、自分に合った量を自分の好みのメニューで食べるため、米(ご飯)が利用しやすいです。いつもより少し多めに米(ご飯)を食べるように心がけると良いでしょう。炭水化物のエネルギー比率が70%くらいになるのがお勧めです。いつもの食事にご飯をもう1杯追加する、おにぎりを1個追加する、お餅を1個プラスするのも良いでしょう。

(4)減量が必要な場合

スポーツの種目によっては体重を減らす、いわゆる減量が必要なものもあります。この場合、主食であるめし(ご飯)を食べないという減量方法を行う選手も多いと思います。
しかし、スポーツを行うためにはエネルギーが必要です。完全に主食を抜いてしまうのではなく、食事全体のエネルギーを考えて、主食も食べる食事が勧められます。主食を抜くと、体重は減少するかもしれませんが、筋肉が減少してしまうことも多く、試合で十分なパフォーマンスが発揮できないこともあります。体重だけではなく、体組成をみながら、適切な減量を行うようにしていただきたいと思います。

(5)あらゆるスポーツに有効

ラグビーや野球などの身体を大きくすることが必要な種目だけではなく、サッカーや野球などの瞬発力と持久力が必要な種目はもちろん、柔道やボクシングなどの減量が必要な種目、美しさが必要な体操、新体操などの審美系の種目も含め、多彩なスポーツで米(ご飯)をベースにした食事が有効といわれています。
米(ご飯)でエネルギーを確保しておいて、主菜、副菜でたんぱく質源となる肉、魚、卵などを加え、さらに、野菜や果物、牛乳・乳製品が加わればバランスも良く、必要な栄養素が確保できるはずです。
試合のときはもちろん、練習時もベストコンディションで臨み、ベストパフォーマンスが発揮できるように、米(ご飯)を適量、適切に摂取するようにしましょう。

(6)スポーツ選手の炭水化物必要量

スポーツ選手に必要な炭水化物の量は、軽い練習の場合1日体重1kgあたり5~7g、重い練習で7~12gとされています(図表1)。体重60kgの選手を想定すると、軽い練習で300~420g、重い練習で420~720gとなります。

図表1 炭水化物をどれだけ食べれば良いか

炭水化物をどれだけ食べれば良いか

ごはん100gには炭水化物が38g含まれていますので、ごはんの量では軽い練習で790~1,100g、重い練習では1,100~1,900gとなります。これはそれぞれ、ごはん2.4~3.3合、3.3~5.8合となります。お茶碗1杯を180gとすると、軽い練習ではお茶碗4~6杯、重い練習では6~10杯となります(図表2)。

図表2 ご飯をどれだけ食べれば良いか

ご飯をどれだけ食べれば良いか

米とビタミンB1

(1)脚気の原因

脚気という病気があります。脚気は水溶性のビタミンの一種であるビタミンB1が不足して起こる疾患です。脚気の初期には食欲不振、全身とくに下半身に倦怠感が生じるとされています。病気が進行すると次第に足のしびれやむくみ、動悸、息切れ、感覚の麻痺などの症状があらわれ、さらに進行すると手足に力が入らず寝たきりとなり、心不全が悪化して死にいたることもあります。
わが国では古くから脚気の発生が記録されています。江戸時代には白米を食べる習慣が広がり、とくに江戸での発生が多かったこともあり、「江戸患い」とも呼ばれていました。明治時代では軍隊での脚気の発生が非常に多くなっていました。これは軍人の食事として白米を食べることが推奨されていたためです。さまざまな脚気の原因が考えられましたが、その解明にはいたりませんでした。
そのようななか、海軍は白米主体の食事を洋食や麦飯にかえることで脚気の発生を抑えることに成功しました。しかし、その後も脚気の流行は続き、大正時代には脚気の死亡者が全国で2万7千人にも達し、「国民病」あるいは「亡国病」などといわれました。その後、脚気の原因がビタミンB1不足ということが解明され、徐々に脚気の患者は減少し、現在ではほとんどみられない状況にあります。
このようにわが国の脚気発生の原因は、主に白米の多食に対して、ビタミンB1が欠乏していたためでした。

(2)ビタミンB1のはたらき

ビタミンB1は、グルコースや分枝鎖アミノ酸の代謝などに関与しています。欠乏症は脚気、ウェルニッケ-コルサコフ症候群があります。ビタミンB1の必要量はエネルギー摂取量あたりで策定されています。すなわち、エネルギー摂取量が多い場合にはビタミンB1の必要量も多くなります。
穀類にはビタミンB1が含まれていますが、精製が進むにつれてその含量が減少していきます。これはビタミンB1が米ぬかや胚芽に多く含まれているためです。米は収穫されたときは、黄色い殻につつまれたもみの状態です。そこから籾すりをして籾を取り除くことで「玄米」となります。玄米は、米ぬかで覆われており、凹んだ部分には胚芽があります。玄米から米ぬかを取り除くと「はいが精米」となります。さらに胚芽を取り除いたものが「精白米」となります。
ここで、白米、胚芽米、玄米のビタミンB1含量をみてみると、図表3のようになります。

図表3 白米、胚芽米、玄米のエネルギー、ビタミンB1含量

エネルギー
(kcal)
ビタミンB1
(mg)
水稲穀粒 玄米 346 0.41
胚芽精米 343 0.23
精白米/うるち米 342 0.08
水稲めし 玄米 152 0.16
胚芽精米 159 0.08
精白米/うるち米 156 0.02

資料:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)」2020年版

(3)高エネルギー食でのビタミンB1必要量

高校野球や高校ラグビーの選手では身体を大きくするために、1日5,000kcal程度のエネルギー摂取が勧められることがあります。この場合、炭水化物を米として計算すると、1日6合の摂取が勧められることになります。ここで、白米、胚芽米、玄米を1日6合食べた場合のエネルギーとB1摂取量を計算してみると、図表4のようになります(なお、米1合は150g、炊飯した場合には2.2倍、すなわち330gになるとして、炊飯後のめし6合は2,000gで計算してあります)。

図表4 白米、胚芽米、玄米を1日6合食べた場合のエネルギーとB1摂取量

エネルギー
(kcal)
ビタミンB1
(mg)
玄米 めし 3,040 3.20
胚芽精米 めし 3,180 1.60
精白米/うるち米 めし 3,120 0.40

エネルギーは約3,000kcal、総エネルギーに対する比率は60%と3種類でほぼ等しくなりますが、ビタミンB1量は玄米では3.20mg、胚芽精米で1.60mgであるのに対して、精白米では0.40mgと少なくなっています。
ビタミンB1の必要量はエネルギー1,000kcalあたり0.45mgなので、総エネルギー摂取量が5,000kcalの場合、必要なビタミンB1量は2.25mgとなります。したがって、玄米を摂取した場合には必要量を充たしていますが、胚芽精米では少し不足、精白米では不足する可能性があることがわかります。実際は、米以外からのビタミンB1摂取も加わりますので、この表の値よりもビタミンB1摂取は多くなります。

(4)脚気予備軍の危険性

米をたくさん食べている選手の中には、たくさん食べているにもかかわらず、疲れが取れないなどの症状を訴える者もいます。脚気までは進行していないまでも、それに近い状態(脚気の予備群)になっている可能性もあります。
精白米を多く摂取する場合にはビタミンB1の強化米などの利用も考慮する必要もあります。また、胚芽精米、玄米の利用、雑穀米などの利用なども勧められます。もちろん主菜、副菜にビタミンB1の多い食品を加えることも必要です。図表5にビタミンB1の多い食品の例を示しましたので、参考にしてください。

図表5 ビタミンB1の多い食品

食品名 1回使用量 ビタミンB1 100g
あたりの
ビタミンB1
豚ヒレ肉 80g 1.06 1.32
豚もも肉(赤肉部分) 80g 0.77 0.96
ボンレスハム 60g(3枚) 0.54 0.90
ウナギのかば焼き 100g(1串) 0.75 0.75
タラコ 25g 0.18 0.71
えんどう豆(ゆで) 45g 0.12 0.27
ひらたけ 50g 0.20 0.40
玄米ご飯 150g(1膳) 0.24 0.16
胚芽精米ご飯 150g(1膳) 0.12 0.08

ビタミンB1は、豚肉にとくに多く含まれています。スポーツ選手は脂肪が少ないことから鶏肉を選択することも多いですが、豚肉、鶏肉、牛肉それぞれに長所がありますので、ローテーションして食べることも大切です。
現在、わが国には脚気の患者はほぼ存在しないと考えられますが、潜在性の予備群と考えられる人たちは存在している可能性があります。精白米、胚芽精米、玄米など食べる米の種類を考えること、強化米の活用、そしてビタミンB1の多い食品との組み合わせが大切です。

女子栄養大学 栄養生理学 教授 上西一弘

注釈

  1. 当稿は、健康のためのスポーツでなく、エネルギーを多く必要とするスポーツ青年など競技スポーツのレベルの人たちを想定しています。
  2. 一般的に炭水化物という用語の中には、糖質と食物繊維が含まれます。糖質と食物繊維では生体に対する効果が異なり、発生するエネルギー量も異なります。本稿では主にエネルギーについて話題にしていますが、食物繊維を含む炭水化物という表現を用いています。