03米と健康健康的な食事におけるご飯の位置づけ
1日本人の食生活の現状とその変遷
(1)エネルギー摂取量
国民健康・栄養調査(厚生労働省)によると、私たち日本人が1日に摂取するエネルギー量は1970年頃をピークに減少し、2000年以降は横ばい傾向になっています(図表1左)。途中、調査日数の変更や、食品成分表の改訂などがあり、結果を単純に比較することはできませんが、現在のエネルギー摂取量は、およそ1,900kcalで、調査が始まった戦後当時とほぼ同程度となっています。
エネルギー源となる、炭水化物・脂質・たんぱく質の摂取量の変化をみてみると、脂質は1970年頃までは増加しましたが、その後は横ばいとなっています(図表1右)。一方、炭水化物は2000年頃まで一貫して減少しています。これが1970年頃からのエネルギー摂取量の減少につながったと考えられます。
図表1 エネルギー・エネルギー産生栄養素摂取量の年次推移(1946-2017年)
(2)穀物摂取量
炭水化物の主要な摂取源である穀類摂取量の推移をみてみましょう。図表2のとおり、途中調査方式が変更になっていますが、穀類全体の摂取量は年々減少していることがわかります。しかし、その内訳をみると、小麦類は2005年99.3gで19年99.4gとほとんど変化がないのに対して、米類は343.9gから301.4gと、国民1人1日当たりの摂取量が約40g減少していることがわかります。
これは、ご飯でいうと、5口程度にあたります。農林水産省の資料によると、ご飯を1日もう1口食べると、食料自給率が1%増えるとされています。2022年度の食料自給率(カロリーベース)は38%で、2030年度の目標は45%です。米自体の自給率はほぼ100%ですが、米摂取量の落ち込みは、食料の安全保障という面でも考えていかなければならない問題です。
図表2 穀類摂取量の推移(全国、1人1日当たり)
(3)食事パターンの変化
20歳以上の成人、およそ9万人の食事内容を分析し、2003年から15年までの13年間の食事パターンの変化を調べた研究によると、米を含む「植物性食品と魚」(野菜料理や魚料理)パターンの食事をしている者は減少し、「パンと乳製品」「動物性食品と油脂」(油脂を多く使って調理した肉料理など)パターンの食事をしている者が増加したことが報告されています※1。
このように、ライフスタイルや食生活の多様化により、日本人の食卓は変化し、主食である米の存在が薄れつつある可能性が示唆されています。
2なぜ、日本人は米を食べないのか
(1)米の消費が減った理由
農林水産省の米の消費動向調査によると、米の消費量が減少した理由として、主食を減らし副食(副菜・おかず)を食べる量を増やした、また食事量全体を減らしたことを理由にあげる者が多くみられました(図表3)※2。
さらに、同調査では、低糖質ダイエットへの関心も調べており、関心があると回答した者(41%)は、関心がないと回答した者(49%)より少ないものの、全体の2~3割の者はすでに経験済みで、さらに2~3割の者が今後やってみたいと回答していました。その割合は、やせが社会課題となっている若年女性でもっとも多かったため、低糖質ダイエットによるエネルギー摂取不足も心配です。
図表3 米の消費量の変化
(2)米に対するイメージ
では、米に対するイメージは、どうでしょう。農林水産省の調べによると、「米は健康に良い」といった肯定的な意見をもつ者が多いものの、1996(平成8)年の内閣府世論調査(n=5,000)と比べると、2020(令和2)年では約20ポイント減少しています(図表4)。一方、「米を食べると太る」との回答は、今回2ポイント増加しました。また、良い・太るともに「どちらともいえない」と回答する者がそれぞれ15~20ポイント程度増加しました。
このように、この25年ほどで米に対するイメージが変化してきたことがわかります。
図表4 米に対するイメージの変化(1996年 vs 2020年)
3米の栄養価
米にはどのような栄養素が含まれているのでしょうか。図表5に、めし100g当たりに含まれるエネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、食物繊維、ビタミンB1、マンガンの量を示しています。
炭水化物・たんぱく質・脂質は「エネルギー産生栄養素」と呼ばれ、私たちが生きていくためのエネルギー源となります。また、炭水化物のうち、身体の中で消化されにくい成分である「食物繊維」には、排便習慣の改善や、糖尿病や心筋梗塞などの生活習慣病の発症予防の効果が期待されています。その他、糖やアミノ酸の代謝に必要な「ビタミンB1」、酵素の活性化を助けて栄養素の代謝に関わるミネラルである「マンガン」なども含まれています。
ビタミンB1は不足すると全身の倦怠感や食欲不振などをともなう「脚気」のリスクが高まります。図表5のとおり、精白米のビタミンB1含有量は玄米や胚芽精米、赤米などと比べて少ないことがわかります。これは、精米する際に、ビタミンB1の含有率の高い胚芽を8割以上取り除いてしまうためです。マンガンも広く食品に含まれていますが、精製度の低い穀類に多く含まれています。そこで、より栄養価の高い主食を食生活に取り入れるには、精製度の低い玄米や胚芽精米、あるいは精白米に赤米などを混ぜて食べることを試される方もいるようです。
食物繊維は日本人で不足しがちな栄養素の一つですが、野菜に加えて、穀類は主要な供給源です。食物繊維は善玉菌のエサとなるため、腸内環境を整える働きがあります。食事バランスガイドでは、主食は1日に5~7つ(1つ=めし100g)が目安ですが、精白米でも目安量を食べることで食物繊維は7.5g~10.5gとなり、推奨される量の約半分を摂取できます。そのため、主食であるご飯は毎食しっかり食べ、腸内環境を整えましょう。
図表5 米の栄養価(めし可食部100gあたり)
横にスクロールします。
食品名 | エネルギー | たんぱく質 | 脂質 | 炭水化物 | 食物繊維 | ビタミンB1 | マンガン |
---|---|---|---|---|---|---|---|
kcal | g | g | g | g | mg | mg | |
玄米 | 152 | 2.4 | (0.9) | 32.0 | 1.4 | 0.16 | 1.04 |
半つき米 | 154 | (2.2) | (0.5) | 33.5 | 0.8 | 0.08 | 0.60 |
七分つき米 | 160 | (2.1) | (0.5) | 36.7※ | 0.5 | 0.06 | 0.46 |
精白米 うるち米 | 156 | 2.0 | 0.2 | 34.6 | 1.5 | 0.02 | 0.35 |
精白米 もち米 | 188 | 3.1 | 0.4 | 41.5 | (0.4) | 0.03 | 0.50 |
はいが精米 | 159 | 2.7※ | (0.6) | 34.5 | 0.8 | 0.08 | 0.68 |
発芽玄米 | 161 | 2.7 | 1.3 | 33.7※ | 1.8 | 0.13 | 0.93 |
赤米 | 150 | 3.8※ | 1.3※ | 28.2 | 3.4 | 0.15 | 1.00 |
黒米 | 150 | 3.6※ | 1.4※ | 28.2 | 3.3 | 0.14 | 1.95 |
資料:文部科学省「日本食品標準成分表2020年版」(八訂)
注 :数値はすべて、水稲めし100g当たりの値。( )は推定値。
たんぱく質は「アミノ酸組成によるたんぱく質」。ただし、※印があるものは「たんぱく質」の値。
脂質は「脂肪酸のトリアシルグリセロール当量」。ただし※印があるものは「脂質」の値。
炭水化物は「利用可能炭水化物(質量)」。ただし、※印があるものは「差引き法による利用可能炭水化物」の値。
4適切な量と質の食事と健康影響
(1)主食・主菜・副菜が基本
わが国では、「主食・主菜・副菜を組み合わせた食事」を栄養バランスに配慮した食事の目安としており、そのような食生活を実践する者を増やすことが、若年女性のやせの問題や、成人男性の肥満の問題を是正する上でも重要と考えられています。しかし、健康日本21(第二次)の最終評価※3によると、取り組んでいる者の割合は減少し、最終評価は「悪化」(相対的変化 -17.6%)となりました。とくに、20~40歳代で実践できていないことが報告されています※3。
主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の回数が多い人ほど、エネルギー、たんぱく質、各種ビタミン・ミネラルの摂取量が多く、日本人の食事摂取基準にも合致していることが報告されています※4。健康影響についても、主食・主菜・副菜を基本とする食事バランスガイドへの遵守度が高い人ほど死亡リスクが低く、腹囲は小さく、そしてLDLコレステロール値は低いことが示されています※4。
(2)日本食パターンの食事
白米については、摂取量が増えるほど、2型糖尿病の罹患リスクが高まることが複数の研究結果を統合して検討した先行研究※5により報告されています。また、運動習慣のない人では、白米の摂取量が増えると糖尿病のリスクが高まりやすいとの報告もありますが※6、食事パターンとして、ご飯、味噌汁、海藻、漬物、緑黄色野菜などの8品目のスコア「日本食インデックス」(JDI8:8-item Japanese Diet Index)が高い者ほど、全死亡、循環器疾患死亡、心疾患死亡のリスクが低いことが報告されています※7。動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版※8でも、日本食パターンの食事(肉の脂身や動物脂を控え、加工品を控え、大豆、魚、野菜、海藻、きのこ、果物、未精製穀類を取り合わせて食べる減塩した日本食パターンの食事)は、血清脂質を改善し、動脈硬化性疾患の予防が期待されるとして推奨されています(図表6)。
図表6 日本食パターンの食事例
このように、バランスの良い食事の要素として主食は欠かせないものであり、かつ減塩を実現するためにも、味のついていない、日本人の主食であるご飯を食事の中心に据えることは実践しやすい食事のコツと考えられます。
5持続可能で健康な食事の実現にむけて
近年では、人々の健康だけでなく、生物多様性や地球環境の健康を保護するための「持続可能で健康な食事」の実現が求められています。食生活など、人々のライフスタイルが脱酸素型に移行することは、気候変動対策を進める上で重要となっています。国際的な目標である世界の平均気温上昇を1.5℃に抑えるためには、日本人は2030年までにカーボンフットプリントを67%削減(2019年から2030年まで毎年10%削減)、2050年までに91%削減する必要があります。食・住居・移動など、日々のライフタイルにより排出されるカーボンフットプリントのうち、住居・移動の次に多いのは食で、約18%となっています。とくに肉類は、消費量全体の5%程度ですが、カーボンフットプリント全体の約4分の1(23%)を占めています(図表7)。肉類・魚介類・卵・乳製品の動物性食品を合わせると、カーボンフットプリント全体の45%となり(消費量は約17%)、消費量の2.6倍のカーボンフットプリントとなっています。一方、米・野菜などの植物性食品は、消費量と排出量がほぼ1:1(野菜は2:1)であり、環境負荷が小さいことがわかります。地球の持続可能性と人の健康を両立させる食事として提案された「プラネタリーヘルスダイエット」(EAT-Lancet)でも、全粒穀物を含む植物性食品は積極的な摂取が推奨されています。
私たちの日々の食生活は、私たちの健康だけでなく、地球の健康も守ります。健康や環境への効果はすぐに出るものではありませんが、望ましい食習慣が継続され、さらに人々の間に行動の環が広がっていくことで、大きな効果をもたらすことが期待されます。そこで、日々の実践のヒントとして、「人と地球の未来をつくる『健康な食事』実践ガイド」(図表8)もぜひご活用ください。
図表7 日本人の食にするカーボンフットプリントと消費量の割合(2017年)
図表8 人と地球の未来をつくる「健康な食事」実践ガイド
参考文献
- Murakami K, Livingstone MBE, Sasaki S.“Thirteen-year trends in dietary patterns among Japanese adults in the National Health and Nutrition Survey 2003-2015: Continuous westernization of the Japanese diet.”Nutrients; 10: 994(2018)
- 農林水産省「米の消費動向に関する調査の結果概要」(令和2年3月)
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/syokuryo/200331/attach/pdf/index-14.pdf(PDF477KB) - 厚生労働省「健康日本21(第二次)最終評価報告書を公表します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28410.html[外部リンク] - 黒谷佳代、中出麻紀子、瀧本秀美「主食・主菜・副菜を組み合わせた食事と健康・栄養状態ならびに食物・栄養素摂取状況との関連─国内文献データベースに基づくシステマティックレビュー─.」栄養学雑誌; 76, 77–88(2018)
- Lai H, Sun M, Liu Y, et al.“White rice consumption and risk of cardiometabolic and cancer outcomes: A systematic review and dose response meta-analysis of prospective cohort studies. ”Crit Rev Food Science Nutrition; 2101984(2022)
- Nanri A, Mizoue M, Noda Y, et al.“Rice intake and type 2 diabetes in Japanese men and women: the Japan Public Health Center-based prospective study.”Am J Clin Nutr 92: 1468-1477.(2010)
- Matsuyama S, Sawada N, Tomata Y, et al.“Association between adherence to the Japanese diet and all-cause and cause-specific mortality: the Japan Public Health Center-based Prospective Study. ”Eur J Nutr; 60: 1327–1336(2021)
- 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」日本動脈硬化学会、東京(2022)