02米の特性米の貯蔵中の変化、低温貯蔵効果

米の貯蔵中の損耗と品質変化

(1)米の貯蔵中の損耗

米は稲の種子であり、籾や玄米は収穫後の貯蔵中でも生きています。養分を使って呼吸を行い、酸素を消耗し、二酸化炭素と水蒸気と熱を発生します。
米の呼吸量は、温度および水分含量の影響を強く受け、温度が高いほど、また、環境湿度が高いほど呼吸が盛んになり、穀温の上昇と水分含量の増加が起こり、成分が消耗されます。

(2)米の品質変化

米の貯蔵中の品質変化としては、生物的変化、化学的変化、物理的変化があげられます(図表1)。

図表1 米の貯蔵と品質劣化、測定方法および品質劣化の防止法

米の貯蔵と品質劣化、測定方法および品質劣化の防止法

1)生物的変化

生物的変化の例としては、発芽率の減少、パーオキシダーゼなどの酸化還元酵素、アミラーゼなどの加水分解酵素等の内在性酵素活性の低下などがあげられます。

2)化学的変化

化学的変化の例としては、でんぷん、たんぱく質、脂質などの成分の分解があげられます。このうち、もっとも速く分解が進行するのは脂質です。リパーゼによって中性脂質がグリセリンと遊離脂肪酸とに分解され、酸化分解を経てペンタナールやヘキサナールとなり、古米臭の原因となります。でんぷんは各種のアミラーゼによってデキストリン、マルトース、グルコースに分解され、還元糖が増加します。たんぱく質はプロテアーゼやペプチダーゼの作用によってペプチドやアミノ酸に分解されます。

3)物理的変化

物理的変化の例としては、外観光沢や白度の減少、精米特性の低下、吸水性の低下、精米粉の糊化特性の変化、米飯物性の変化などがあげられます。

貯蔵中の品質変化とその検出

貯蔵中の米の品質変化の程度は、品種の休眠性、米の初期水分含量、貯蔵条件(温度、環境湿度、環境気体)、貯蔵形態(籾、玄米、精米、米粉)、包装形態(紙袋、有孔袋、樹脂袋、積層フィルム)その他の条件によって異なっており、貯蔵期間のみで推定することは困難です。
そこで、貯蔵中の品質変化を示す明確な指標が必要とされており、以下の例があげられます。

(1)発芽率

試料の籾や玄米の表面を殺菌し、十分に吸水させた後、含水濾紙を敷いた上に試料米を置き、20℃で静置して7日までに発芽した粒数の割合(%)を発芽率とします。
発芽率の高い米は、生命力が損なわれていないことを示し、品質や食味が良好に維持されています。この方法の問題は、精米や粉末試料に使えないこと、試験に時間を要することです。

(2)酵素活性

米は稲の種子であるので各種の酵素を含んでおり、これらの活性低下度を貯蔵中の品質劣化指標とすることができます。
グアヤコール試験は、グアヤコールがパーオキシダーゼの作用によってテトラグアヤコールになり、赤褐色になることを利用した試験方法です。酵素活性が低下すると米粒および浸漬液の呈色が弱くなり、古米化するとまったく呈色しなくなります。この方法は、玄米および精米の試料で試験が可能であり、精米の場合は浸漬液の呈色度で判定します。
TTCテストは、2,3,5-トリフェニル・テトラゾリウム・クロライド(略称TTC)が、玄米の胚芽に存在するコハク酸脱水素酵素の作用によってフォルマザンに変化して鮮紅色になる性質を利用した試験方法です。玄米をTTC水溶液に24時間浸漬し、胚芽が鮮紅色になった粒数の割合で判定します。短時間で判定できることが特徴ですが、精米には適用できません。

(3)抽出液pHの低下検出技術とその自動化

抽出液pHの低下検出技術とは、米の貯蔵期間が長くなるにつれて水抽出酸度が増加することを利用した、玄米の新古鑑定方法です。玄米に純水を添加した場合、新米ではpHが約6.8となり、古米では約5.8となります。こうしたpHの変化をメチルレッド・ブロムチモールブルー混合指示薬で呈色反応として検出するのですが、新米や低温貯蔵の古米では青緑色、古米は黄緑色、古々米は黄色に呈色します。
この方法は簡便で迅速であり、半自動化して呈色反応を定量することによって品質劣化を数値化した装置が開発されています。

(4)脂肪酸度

米の貯蔵中に脂肪が分解されて生じるリノール酸やオレイン酸のような遊離脂肪酸を、試料穀粉から有機溶媒で抽出し、アルコール共存下のアルカリ添加による中和滴定に要した水酸化カリウム量を脂肪酸度と呼び、古米化の程度を示す指標としています。
筆者等は、滴定法の問題点を解決するため、トルエンで抽出した遊離脂肪酸を銅塩として比色定量する高感度測定法を開発しました。

(5)整粒歩合と糊化特性

貯蔵の過程で米の硬度は増し、精米後の整粒割合が向上します。
熱帯アジアでは、整粒割合が向上する範囲内では古米化は好ましい変化ととらえられており、米飯の硬さが増して粘りが減少し、炊飯時の膨張度も増すことから、古米化を好ましい変化ととらえる国々もあります。

(6)食味計測装置

各種の食味計測装置において、貯蔵中の品質変化の計測という点では対応可能な機種が少なくなっています。その後、装置の改良も進み、炊飯後の試料を用いて分光測定する食味計測装置や、生米試料でも全波長スペクトルを変数とする解析方法を導入した装置の場合には、貯蔵中の変化をある程度とらえることも可能になってきています。

米の低温貯蔵

(1)食糧研究所による低温貯蔵技術の開発

1930年代末に、米の害虫発生や微生物繁殖、品質低下などが低温貯蔵によって抑制されることが報告されました。食糧研究所では、貯蔵中の加害生物の抑制の視点や、米品質保持の視点から低温貯蔵の研究を行い、その効果の科学的根拠を示しました。これにより、米の低温貯蔵は、常温貯蔵中に進行する各種酵素活性の低下、でんぷんの分解、たんぱく質の変性、脂質の分解等を抑制することが明らかになりました。
これらの結果に基づいて、夏季でも温度が15℃以下、湿度も70~75%に調節され、品質の保持される低温倉庫が全国に建設されました。

(2)北海道立中央農業試験場での貯蔵試験結果

北海道立中央農業試験場における大規模な長期貯蔵試験により、低温貯蔵の有効性が改めて明らかにされました。これにより、低温籾貯蔵、低温玄米貯蔵、常温籾貯蔵、常温玄米貯蔵の順に貯蔵中の変化が少ないことが示されました。
また、窒素置換包装などの環境気体の調節も、低温貯蔵と組み合わせることで、効果がいっそう有効に発揮されることも示されました。

(3)食総研での貯蔵試験結果

食総研(現・農研機構 食品研究部門)では、流通量の多い「コシヒカリ」などの良食味米や新規育成米を試料として貯蔵試験を行いました。そして、貯蔵中の変化には品種間差異のあること、近赤外分光分析値、米飯物性測定値、糊化最高粘度、TTC試験、脂肪酸度、炊飯特性試験の加熱吸水率などの各種の物理化学的測定値が、食味官能検査による食味変化と有意の相関を示すことを明らかにしました。

(4)新潟大における温度別の貯蔵試験

「コシヒカリ」の低温貯蔵(5℃・15℃の3カ月および6カ月貯蔵)においては、水分含量・α-アミラーゼ活性・表層の粘りがわずかに減少し、脂肪酸度がわずかに増加しましたが、古米化の傾向はほとんど示されませんでした。
常温貯蔵(25℃・35℃の3カ月および6カ月貯蔵)においては、水分含量・α-アミラーゼ活性の低下、表層の硬さのわずかな増加、老化指標の最終粘度・コンシステンシーの増加、古米化指標の脂肪酸度、炊飯特性試験の加熱吸水率・炊飯液ヨード呈色の増加が示され、古米化の進行が確認されました(図表2)。

図表2 温度を変えた貯蔵試験の結果

温度を変えた貯蔵試験の結果

最近の新しい貯蔵技術

(1)氷温貯蔵

氷温貯蔵は、氷点下以下でしかも凍結しない程度の温度で貯蔵することによって品質を保持・改善しようとする貯蔵法です。
試料玄米の水分含量を変えて-1℃、-5℃での60日間の氷温貯蔵を行った結果、中水分氷温貯蔵の場合、呈味性の糖やアミノ酸が増加し、対照米に比べて、食味試験結果が良好になるという事例が報告されています。

(2)雪室貯蔵

山形県農業試験場では、雪室を利用した低温高湿度貯蔵試験を行いました。そして、雪室貯蔵の玄米は鮮度がよく維持されており、新米に近い食味を有しているとの研究成果を発表しました。
4月から9月まで貯蔵した結果、室温玄米では酵素活性が低下して脂肪酸度が増加し、室温貯蔵玄米は速く劣化し、低温貯蔵玄米と雪室貯蔵玄米はほぼ同等でした。玄米の貯蔵が長くなるほど酸化が進み、低温と雪室では酸化の速度が小さいという結果となりました。

(3)北海道大学の寒冷気導入超低温貯蔵技術

北海道大学では、冬季の寒冷気候を利用した米の長期高品質貯蔵技術を開発しました(図表3)。この技術では、冷却に電気エネルギーを使用せずに米を氷点下に冷却保管することができるうえ、呼吸や生理活性の抑制による高品質保持が可能であり、さらに、貯蔵中の殺虫剤使用等も不要ということです。

図表3 北海道のカントリーエレベーターと低温貯蔵の様子

北海道のカントリーエレベーターと低温貯蔵の様子
新潟薬科大学 特任教授 大坪研一

参考文献

  • 谷 達雄ら「米の品質と貯蔵、利用」食糧研究所p.68(1969)
  • 大坪研一『米の科学』(貯蔵・流通条件と品質)p.103朝倉書店(1995)
  • 稲津 脩ら「北海道産米の貯蔵法に関する試験成績書」北海道立中央農業試験場(1990)
  • 豊島英親ほか8名 日本食品科学工学会誌45(11)683(1998)
  • 川村周三「氷点下の温度を用いた米の長期高品質貯蔵技術の開発」科学研究費補助金研究成果報告書(2004)