01米の品種お米の産地銘柄とブレンド米の進化

日本のお米事情

日本では、北海道から沖縄まで全都道府県で米づくりが行われています。現在、お米の品種は約1,000品種(令和5年)が登録されていますが、実際に作付けされているのは約300品種ほどで、上位20品種が全体の約80%を占めています(図表1)。

図表1 うるち米の品種別作付比率

(単位:%)

順位 品種名 作付割合 主要産地
1 コシヒカリ 33.4 新潟、茨城、栃木
2 ひとめぼれ 8.5 宮城、岩手、福島
3 ヒノヒカリ 8.1 熊本、大分、鹿児島
4 あきたこまち 6.7 秋田、茨城、岩手
5 ななつぼし 3.2 北海道
6 はえぬき 2.9 山形
7 まっしぐら 2.4 青森
8 キヌヒカリ 1.9 滋賀、兵庫、京都
9 ゆめぴりか 1.8 北海道
10 きぬむすめ 1.8 島根、岡山、鳥取
上位10品種計 70.7
11 こしいぶき 1.5 新潟
12 つや姫 1.4 山形、宮城、島根
13 あさひの夢 1.3 群馬、栃木、茨城
14 夢つくし 1.1 福岡
15 天のつぶ 1.0 福島
16 ふさこがね 0.9 千葉
17 あいちのかおり 0.8 愛知
18 あきさかり 0.8 広島、徳島、福井
19 彩のかがやき 0.7 埼玉
20 ハツシモ 0.6 岐阜、愛知
上位20品種計 80.8

資料:米穀安定供給確保支援機構調べ
注:令和4年、上位20品種。

各地域では、その土地の気候に最適な品種が栽培されています。最近では、地球温暖化に対応した良食味で暑さに強い、高温耐性の品種が増えています。
お米の開発には、おいしさや品質向上だけでなく、寒さや暑さ、病気に強く、栽培期間による特性(早生わせ中生なかて晩生おくて)など、生産者が育てやすい品種を求め、各農業試験場で積極的な育成が進められています。新しい品種の開発には10年以上かかり、育種プロジェクトは10年先を見越して計画されています。

お米のおいしさの要素

お米のおいしさは、お米の味(食味)と品質(食感)の両方が重要です。

(1)食味(味わい)

お米の味わいは、産地、気候、栽培方法、生産者によっても異なります。
日本は東西に広がるため、地域ごとに異なる天候や自然環境が影響し、それに適した栽培方法が求められます。
栽培方法は、一般的な栽培(慣行栽培)や動植物、微生物を活用した栽培方法、第三者により認証を受けた、無農薬・無化学肥料の有機栽培(有機JAS)、さらには、農薬と化学肥料を双方ともに半分以上節減した特別栽培があります。また、地域ごとに独自の基準に基づく認証が行われるなど、おいしいお米づくりに力が注がれています。

(2)品質(食感)

刈り取った稲には、実がなっていないものや小さな粒の米などが含まれます。その後の調整が品質を左右する重要なポイントになります。
収穫された稲は、脱穀して籾を乾燥させ、籾摺りを行います。その後、「ふるい」にかけて粒の大きさを調整し玄米に仕上げられます。品質向上に特に注力しているところでは、「光選別機」を使用し、玄米の品質をさらに向上させています。さらに、精米工程においても、精米中に割れたお米や着色したお米などを取り除くために「ふるい」や「光選別機」が使用されます。このように丁寧に選別された品質の高いお米は、炊きたてはもちろん、時間が経ってもおいしさが持続します。
また、同じ品種でも年や地域、土壌、栽培方法、玄米の調整、精米の工程によって、味や食感が変わってきます。これらの見えない努力と時間をかけて、消費者においしいお米が届けられています。

品種の特徴とブランド米

(1)「コシヒカリ」とその後継品種

「コシヒカリ」(昭和31年誕生)は日本でもっとも広く作付けられ、全体の3割を占めています。「コシヒカリ」の食味を受け継ぎながら、栽培特性を改良した後継品種が次々と開発されています。これによりお米は、「コシヒカリ」の優れた特性を引き継ぎつつ、新たな進化を遂げています。

(2)ブランド米の進化と多様性

各産地では、独自の品質基準を設け、お米に付加価値を与えるブランド化への取組みも行われています。地域ごとの自然環境に合わせた栽培と、品種の個性を引き立てることで、独自のブランドが築かれ進化しています(図表2)。

図表2 全国で作られている品種

全国で作られている品種
資料:(公社)米穀安定供給確保支援機構「令和4年産水稲の品種別作付動向について」
注:各産地で作付されている令和3年産うるち米上位3品種

(3)食べるシーンに合わせた品種選び

このように日本にはさまざまなお米の品種・銘柄があり、品種や産地によってお米の食感が異なります。これらお米の食感を4つのゾーンに分けると、どんな料理に合うかが見えてきます。
図表3で、縦軸はご飯の粘り具合が「もっちり」か「あっさり」かを、横軸はご飯の硬さが「やわらか」か「しっかり」かを示しています。縦軸と横軸で4つのゾーンに分けられ、どのゾーンも異なるおいしさがあります。そして、各ゾーンでぴったりなおかずが見えてきます(図表4)。

図表3 お米の食感チャート

お米の食感チャート
資料:五つ星お米マイスター 金子真人考案

図表4 各ゾーンに合う料理

各ゾーンに合う料理

世代別のおすすめ食感

消費者と接するなかで、世代別に好まれる食感があることを最近とくに感じます。図表5では、おすすめの食感を世代別チャートにしました。

図表5 世代別おすすめお米の食感チャート

世代別おすすめお米の食感チャート
資料:五つ星お米マイスター 金子真人
注:【低アミロース米】アミロースが少ないお米(15%以下)。通常のお米は17~23%のアミロースを含んでいる(例:コシヒカリは17%程度)。もち米はアミロースを含まず、アミロペクチン100%から成り立っている。アミロースが低いほど冷めても粘りが強く、光沢がある。
【高アミロース米】アミロースが多いお米(24%以上)。粘りが少なくパラパラとした食感。ピラフ、チャーハン、パエリア、スパイスカレー、シンガポールチキンライスなど、海外の本格的な料理にも適している。

1)忙しい働き世代

仕事や家事など忙しい現役世代には、手軽な惣菜や濃い味付けの肉系おかずが好まれています。これらのおかずは、歯ごたえがあり食べ応えのある食感のご飯が合います。ご飯とおかずでしっかりと栄養を摂りながらパワーチャージできます。

2)少量でも満足したいシニア世代

焼き魚など和食のおかずが好まれています。やわらかくて食べやすく、かつ味わいがあって少量でも一口目から満足感を味わえるご飯が最適です。和食は食材の旨みを大切にし、健康に気を使うシニアの方にピッタリです。

3)食べ盛りの子育て世代

あっさりとした味わいのご飯は洋食にも合うなど、さまざまな料理と相性が良く、その上おいしさも感じられます。後味が残りにくいので飽きずにたくさん食べられ、「おかわり」しやすいご飯です。

4)卵かけご飯 食が進む朝ご飯

あっさりしたご飯は、しょう油の香りと風味を引き立て、卵のまろやかさと濃さがご飯と口の中で絶妙に調和します。最後にご飯の味わいも感じられます。

お米の魅力

(1)食の多様化時代

今時の炊飯器には、いろいろな炊き方(炊き分け)機能が搭載されており、ライフスタイルに合わせてお米選びを楽しむことができます。通常の「ふつう」炊きで水の加減を調整するのは難しいこともありますが、これらの機能を利用することで、炊飯時に「粘りや硬さ」を食事に合わせて調整し、自分好みの食感に仕上げることができます。

(2)最近の傾向

最近では、口に入れた瞬間においしさを感じる「もっちり・やわらか」で粘りが強く、濃い味の品種が注目を集めています。しかし、これらの品種は少量でも満足感が得られるため、結果的にお米の消費量は抑えられてしまいます。
食味審査では、わずか1~3口でお米のおいしさを評価しますが、本来は、お茶碗1杯を食べてから「おかわり!」と言えるような品種が、お米の消費量を増やすという点から好ましいといえます。このような品種が生産量を増やし、長年続いてきた日本の稲作を次の世代に継承することにつながるのでしょう。

(3)生活スタイルの提案

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2020年版」によると、理想的な割合は、炭水化物60%、脂質25%、たんぱく質15%程度です。イメージとしては、おかずが控えめでシンプルな「定食スタイル」が理想です。毎日これを実践するのは難しいかもしれませんが、日常と特別な日をうまく使い分けて、平日は「ご飯を中心とした食生活」を心がけ、休日は好きな食べ物を楽しむことで、無理なく継続できるように工夫して、健康的で元気な生活を送ってもらえればと思います。

ブレンド米の進化

上述したように現在では、品種改良や栽培技術改良の成果から日本中どこでも良食味のお米が生産されています。しかし、米は年によって収穫量や品質に差が表れる作物です。常に一定の味を保つためには、ブレンドして複数のお米を調整する技術も必要となります。
ブレンド米というと、「混ぜ物」「格上げ」など悪いイメージをもたれた時代もあったことと思いますが、現代のブレンド米は、目的をもって米職人が創作するものといえます。たとえば、価格を抑える、年間を通して味を均一にする、食味を向上させる、特長を引き出すなどの目的があります。
それぞれのお米の特性を活かし、料理との相性を考えたおいしさを生み出すためには、単に複数の品種を混ぜるのではなく、ブレンドして調和させる独自の技術と目的が必要です。

ブレンドの役割

(1)食材を無駄にしない

価格を抑えることを目的としたブレンドでは、、野菜でいうと曲がったきゅうりのような品位の規格に合わなかった規格外米や、農産物検査を受けていない米などを複数の原料米として使用します。
ちなみに、これらのお米はご飯以外にもせんべい、団子、味噌など昔ながらの加工食品にも使われる他、副産物としては、米ぬかから油や石鹸などの加工品にも利用されています。
ブレンドや加工によりお米は無駄なく活用されてきており、日本にはお米を大切に扱う食文化が根づいています。

(2)理想の食感と味の実現

おいしさを追求し目的に合う食味とするには、単一銘柄(ブランド米)では、細かな食感(硬さ、粘り)の調整が困難です。いくつかの米をブレンドして調整することで「もう少し粘りを抑えたい」「もう少し歯ごたえがほしい」などの繊細な要望に応えることができます。
食感、粘り、硬さ、味を調整するには、ブレンド以外にも米自体を品種改良する方法がありますが、それには長い年月がかかります。ブレンドなら何年もかけることなく、目指すおいしさ(食感)をかたちにすることができます。

(3)味の調和を手に入れる

ブレンドとは、単一銘柄を足し合わせるのではなく、相乗効果を生み出す掛け算のようなものです。これによって理想の味の実現に近づけることができるので、特定の料理に合わせてオーダーメイドのブレンド米を作ることも可能です。料理との相性を考慮することでお米の付加価値は無限に広がり、新しい味を作り出すことができます。
食味に関していえば、やわらかくて粘りのあるお米はすぐにご飯の味が感じられます。しかし、先にメインの料理を味わいながら、口の中でご飯の味と調和した方が、全体として料理がおいしく感じられます。
このように、ブレンドをするさいは、食べた人の満足感や料理と合わせたときにいっそうおいしく感じられるバランスを考える必要があります。

ブレンド技術の活用

(1)多岐にわたるブレンド技術

ブレンド技術は古くからさまざまな食品で幅広く活用されています。日本茶では、産地や品種、蒸し具合などが異なる荒茶の特長を見極め、ブレンド(合組)がされています。他には、コーヒーや紅茶、ハーブティー、ウイスキーにも用いられています(図表6)。味や香りを良くするために、それぞれ特徴の異なったものを混ぜ合わせてより良い製品を作っています。

図表6 食品でのブレンド技術

種 類 ネーミング 専門家
ブレンド お米マイスター®
コーヒー ブレンド J.C.Q.A.コーヒー鑑定士®
紅茶 ブレンド ティーテイスター・ブレンダー
日本茶 合組ごうぐみ 日本茶鑑定士®

喫茶店でコーヒーを頼む場面を想像してみてください。モカ、キリマンジェロ、ブルーマウンテンなどたくさんの銘柄があってもブレンドコーヒーを注文することが多いのではないでしょうか? コーヒーのプロがおいしさを見極めて作ったブレンドだから、「きっとおいしい」という期待感があるのだと思います。

(2)ブレンド技術の重要性

ご飯は炊いてから時間が経過すると食感が変化するため、食シーンによっては、冷めた状態での食感も考慮した配合が求められます。重要なのは、ベースとなる品種の選択です(図表7)。

図表7 ベース米に選んだ品種の一例

ふっくりんこ 銀河のしずく あきたこまち
はえぬき つや姫 雪若丸
ササニシキ 新之助 コシヒカリ
あきさかり 元気つくし さがびより

注:五ツ星お米マイスター金子真人氏が選んだお米。

メニューの目的に合った原料米であるか、ブレンド米との相性を考えることが重要です。
「コシヒカリ」はやわらかくて粘りがありおいしいお米ですが、用途によってはもう少し歯ごたえがほしい場合もあり、水加減を減らしたり、粘りをもう少し抑えたりする工夫がされています。
おいしいお米を複数ブレンドしても相性が合わない場合があります。
また、同一品種であっても産地や栽培方法などによる差異があり、それを考慮した選択が必要です。

日本の美味を堪能しよう

(1)ブレンドで品種を選ぶポイント

ブレンドするお米は2~3種類が一般的なようです。種類が多いほど安定しにくくなります。
同系統同士や、「日本海側」または「太平洋側」の組み合わせもありますが、今では日本中でたくさんの品種が作付けされているので、相性は未知数です。
ブレンドの相性によっては、単一銘柄のお米よりも食味が向上する場合もあります。
最近では、低アミロース系の品種も増えています。これらをベースとなるお米にブレンドすることで、食味を向上させることは一般的なことです。
他にも、品種や産地の違いによって形状・比重・粒張りが異なってくることを考慮に入れてブレンドするお米を選定することがポイントです。
詳しくは、検査用語の解説をご覧ください(農林水産省)。
https://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/kensa/kome/k_kikaku/k_kaisetsu/[外部リンク]

(2)ブレンドされたお米のハーモニー

ブレンド米は、冷凍食品やコンビニのおにぎりなど、さまざまな用途に合わせて作られています。背景には多くの人々の努力があり、農産物という自然の産物にも関わらず、一定の食味の提供と供給の安定を実現しています。
ブレンド米を開発する際には、お米の選定やブレンドの配合に数カ月もの時間をかける場合もあります。このように手間暇かけて生まれたブレンド米は、主役となる料理やメニューとの相性が抜群であり、まるで一流のオーケストラが奏でる音楽のような、素晴らしいおいしさのハーモニーを創り出します。

お米の産地銘柄を知り、その特性を理解することで、よりいっそうお米のおいしさを堪能できることでしょう。

(株)金子商店 代表取締役社長 金子真人