01米の品種市場ニーズに合う品種開発

1市場ニーズに合う品種開発

わが国においては、主食用米需要の減少傾向が続いており、ここ数年の減少幅は年10万t程度になっています※1。主食用米は家庭内で70%程度、中食・外食で30%程度が消費されていますが※2、産地では高価格帯中心の一般家庭向けの米を生産する意向が強い一方で、中食・外食事業者からは低価格帯の米生産へのニーズがあり、ミスマッチが生じています。中食・外食向けのニーズに応じた生産・販売を行うことによって、主食用米の消費動向に対応する必要があります。また、2012年から22年の間に、酒、加工米飯、味噌、米菓等に利用される加工用米は3.3万tから5.0万tに増加しています。
これらの状況に対応して、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)では中食・外食向けの多収・良食味品種や加工用品種を開発してきました(図表1※3)。これら品種の特徴をご紹介します。

図表1 市場ニーズに対応した品種(1)

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品種名 アピールポイント 連絡先
中食・外食向けニーズにも対応した多収・良食味米品種
ゆきさやか 「ゆめぴりか」並の食味で多収。「ゆめぴりか」よりタンパク質含有率が低く、アミロース含有率の年次変動が少ない。 北農研
雪ごぜん 「きらら397」よりアミロース含有率はやや高く、タンパク質含有率は低い。炊飯米の粘りが弱い。 北農研
さんさんまる 「ほしまる」より直播栽培で多収の低アミロース(約15%)品種。耐倒伏性に優れ、いもち病にも強い。 北農研
ちほみのり 「あきたこまち」より多収で「あきたこまち」並の食味。倒れにくく、直播栽培でも多収。 東北研
ゆみあずさ 「あきたこまち」「ひとめぼれ」より多収で良食味。いもち病に強く、直播栽培にも向く。 東北研
つきあかり 食味は「コシヒカリ」をやや超える。保温後も「コシヒカリ」より美味しさが持続。「コシヒカリ」より早生で多収。 中農研
しふくのみのり 耐倒伏性がかなり強く、多肥栽培、直播栽培で多収。高温での玄米品質低下が少ない。縞葉枯病抵抗性。 東北研
にじのきらめき 高温での玄米品質低下が少ない。「コシヒカリ」熟期で倒れにくく多収、「コシヒカリ」並の食味。縞葉枯病抵抗性。 中農研
ほしじるし 縞葉枯病抵抗性で晩植適性があり二毛作に向く多収品種。倒れにくく直播栽培でも多収。 作物研
あきだわら 「コシヒカリ」より多収で「コシヒカリ」並の食味。「コシヒカリ」より晩生のため作期分散が可能。 作物研
あきあかね 「コシヒカリ」より多収で「コシヒカリ」並の食味。穂いもちにやや強い。「コシヒカリ」より晩生のため作期分散が可能。 中農研
恋初めし
(こいそめし)
大粒(玄米千粒重約24g)で良食味の多収品種。穂いもちに強く、縞葉枯病抵抗性。 西農研
つやきらり 「きぬむすめ」より高温登熟性が強く、良食味の多収品種。 九沖研
恋の予感 「ヒノヒカリ」より高温登熟性が強く、穂いもちにも強い。縞葉枯病抵抗性。 西農研
さとのつき 低アミロース(約11%)の多収品種。耐倒伏性が強く、縞葉枯病に抵抗性。 西農研
秋はるか 多収でいもち病、縞葉枯病に強く、高温登熟性が強い。トビイロウンカ抵抗性は中程度。 九沖研
にこまるBL1号 高温耐性品種「にこまる」のいもち病抵抗性を改良した品種。 九沖研
たちはるか 倒れにくく多収。直播栽培に向く。縞葉枯病抵抗性。いもち病にも強い。農薬コストの低減が可能。 九沖研
米粉用に適する品種(米粉パン用)
ほしのこ 米粉の損傷デンプンが少なく、パン用に向く。北海道での栽培に向く粉質米品種。 北農研
ゆめふわり 米粉の損傷デンプンが少なく、パン用に向く。低アミロース。「あきたこまち」熟期。 東北研
こなだもん 米粉の損傷デンプンが少なく、パン用に向く。「ヒノヒカリ」熟期。 九沖研
笑みたわわ 米粉の損傷デンプンが少なく、パンケーキとパン用に向く。やや高アミロース。 九沖研
ミズホチカラ 米粉の損傷デンプンが少なく、パン用に向く。やや高アミロース。 九沖研
米粉用に適する品種(米粉めん用)
北瑞穂
(きたみずほ)
北海道での栽培に向く高アミロース品種。 北農研
あみちゃんまい 「ひとめぼれ」熟期の高アミロース品種。 中農研
越のかおり 「コシヒカリ」熟期の高アミロース品種。 中農研
亜細亜のかおり
(あじあのかおり)
「日本晴」熟期の高アミロース品種。 中農研
ふくのこ 「ヒノヒカリ」熟期の高アミロース品種。 西農研
加工米飯に向く多収品種
やまだわら 「コシヒカリ」より晩生で極多収。倒れにくく多肥栽培が可能。炊飯米の粘りが弱い。 作物研
とよめき 「コシヒカリ」に近い熟期で極多収。倒れにくく多肥栽培が可能。炊飯米の粘りが弱い。 作物研
多収のもち品種
ときめきもち 餅は「ヒメノモチ」より硬くなりにくい。いもち病抵抗性が強く、倒れにくい。 東北研
ゆきみのり 米菓加工適性が高く、かき餅に向く。 中農研
ふわりもち 餅の柔らかさが長持ちする。 中農研
やたのもち 餅が硬くなりにくい。 作物研
さまざまな料理に適する品種
華麗舞
(かれいまい)
炊飯米表面の粘りが少ない。カレーライスに向く。 中農研
和みリゾット
(なごみリゾット)
粒が大きく、イタリア料理のリゾットに向く。 中農研
笑みの絆
(えみのきずな)
炊飯米の粘りが少なく硬め。寿司米に向く。 中農研

図表1 市場ニーズに対応した品種(2)

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品種名 普及地帯 収量レベル
(同熟期の基幹品種比)
特徴
北海道 東北北部 東北中南部 北陸 関東東海 近畿 中四国 九州 食味 高温登熟性 病害抵抗性 直播適性
いもち病 縞葉枯病
中食・外食向けニーズにも対応した多収・良食味米品種
ゆきさやか +3%
(ななつぼし)
ゆめぴりか並
雪ごぜん +19%
(きらら397)
きらら397並
さんさんまる +9%
(ほしまる、直播)
低アミロース
(約15%)
ちほみのり +11%
(あきたこまち)
あきたこまち並
ゆみあずさ +13%
(あきたこまち)
ひとめぼれ並
つきあかり +9%
(あきたこまち)
コシヒカリ並
しふくのみのり +17%
(ひとめぼれ)
ひとめぼれ並
にじのきらめき +15%
(コシヒカリ)
コシヒカリ並
ほしじるし +18%
(月の光)
コシヒカリ並
あきだわら +13%
(日本晴)
コシヒカリ並
あきあかね +16%
(日本晴)
コシヒカリ並
恋初めし
(こいそめし)
+19%
(きぬむすめ)
きぬむすめ並
つやきらり +7%
(きぬむすめ)
ヒノヒカリ並
恋の予感 +19%
(ヒノヒカリ)
ヒノヒカリ並
さとのつき +24%
(ヒノヒカリ)
低アミロース
(約11%)
秋はるか +15%
(ヒノヒカリ)
ヒノヒカリに近い
にこまるBL1号 +17%
(ヒノヒカリ)
ヒノヒカリ並
たちはるか +19%
(レイホウ)
ヒノヒカリ並
米粉用に適する品種(米粉パン用)
ほしのこ -15%
(きらら397)
ゆめふわり -3%
(あきたこまち)
こなだもん 0%
(ヒノヒカリ)
笑みたわわ +51%
(コシヒカリ)
ミズホチカラ +18%
(ニシホマレ)
米粉用に適する品種(米粉めん用)
北瑞穂
(きたみずほ)
+14%
(きらら397)
あみちゃんまい -1%
(ひとめぼれ)
越のかおり -4%
(コシヒカリ)
亜細亜のかおり
(あじあのかおり)
+20%
(コシヒカリ)
ふくのこ +22%
(ヒノヒカリ)
加工米飯に向く多収品種
やまだわら +33%
(朝の光)
日本晴並
とよめき +23%
(コシヒカリ)
日本晴並
多収のもち品種
ときめきもち +2%
(きぬのはだ)
ヒメノモチ以上
(つき餅の食味)
ゆきみのり +13%
(ヒメノモチ)
ふわりもち +9%
(モチミノリ)
モチミノリ以上
(つき餅の食味)
やたのもち +14%
(マンゲツモチ)
マンゲツモチ並
(つき餅の食味)
さまざまな料理に適する品種
華麗舞
(かれいまい)
+14%
(コシヒカリ)
和みリゾット
(なごみリゾット)
+17%
(ひとめぼれ)
笑みの絆
(えみのきずな)
+5%
(コシヒカリ)

2中食・外食向けニーズにも対応した多収・良食味米品種

中食・外食向けの低価格帯の米生産へのニーズに対応するためには、一定レベルの良食味をもちつつ、低コスト生産が可能な収穫量が多い(多収)品種が求められます。

1)ちほみのり

多収で直播栽培向きの良食味品種。移植栽培において「あきたこまち」より標肥条件では11%程度、多肥条件では28%程度多収(808kg/10a)で、直播栽培でも「あきたこまち」より多収です。玄米の外観品質、炊飯米の光沢、粘りとも「あきたこまち」並の良質、良食味です。熟期は「あきたこまち」よりやや早く、栽培適地は東北以南です。

2)つきあかり

早生で多収の極良食味品種。「コシヒカリ」より2週間早く収穫でき、同じ早生品種の「あきたこまち」よりも標肥条件の移植栽培において10%程度多収です。炊飯米はツヤがあり、うま味にも優れる極良食味です。4時間保温しても「コシヒカリ」よりおいしさが持続します。栽培適地は東北以南となっています。

3)にじのきらめき

高温登熟性に優れた多収の良食味品種。同じ熟期の「コシヒカリ」より標肥条件の移植栽培において15%多収(719kg/10a)で、玄米千粒重は24.6gと「コシヒカリ」より重く、玄米外観品質は「コシヒカリ」より優れます。食味は「コシヒカリ」と同等です。栽培適地は「コシヒカリ」の栽培が可能な北陸から関東以西です。

4)ほしじるし

「コシヒカリ」より多収の二毛作向き良食味品種。「月の光」に対して、標肥条件の早植・移植栽培で25%程度(652kg/10a)、標肥条件の晩植・移植栽培でも15%以上(630kg/10a)多収です。炊飯米は「コシヒカリ」に近い良食味で、栽培適地は関東・北陸以西の地域となっています。

3特定の用途に向く品種

(1)加工米飯に向く多収品種

加工米飯用としては、炊飯米の粘りが少なく、加工時の作業性が良好な品種が求められます。また、加工原料として利用されることから、一般食用よりも低価格帯での供給が求められるため、収量性をきわめて高いレベルまで向上させて低コスト生産に対応する必要があります。
 「とよめき」は極多収で粘りが少ない加工米飯用品種です。多肥条件において、標肥条件の「コシヒカリ」に比べ35%程度多収(814kg/10a)の早生品種です。炊飯米は「コシヒカリ」よりも粘らないため、冷凍米飯等の加工用米としての利用に適しています。「コシヒカリ」に近い熟期で、栽培適地は関東・北陸以西の地域です。

(2)米粉用品種等

ここまで、中食・外食向けニーズにも対応した多収・良食味米品種や加工米飯に向く多収品種を紹介してきましたが、その他にも、米粉パンあるいは米粉めんに向く米粉用品種が開発されています。
粒径が小さく、損傷でんぷんの少ない米粉を使用することにより、膨らみが良く型崩れの少ない米粉パンができます。「ミズホチカラ」「笑みたわわ」は「ヒノヒカリ」に比べて40~50%程度多収(690kg/10a程度)で、一般食用品種に比べて、粒径が小さく損傷でんぷんが少ない米粉を得られやすい米粉パン用に適した品種です。両品種ともアミロース(米でんぷん中の成分)含有率が一般食用品種に比べて数%高い21~22%程度で、両品種の米粉で作ったパンは膨らみと柔らかさのバランスが良い特徴があります。
また、アミロース含有率が一般食用米に比べて10%近く高い高アミロース米の米粉からは、麺離れが良い米粉めんを作ることができます。「亜細亜のかおり」は「コシヒカリ」に比べて20%程度多収(800kg/10a前後)で、アミロース含有率32%程度の米粉めん用に適した品種です。多収のもち品種や、寿司、リゾットそれぞれ、「笑みの絆」「和みリゾット」等適した品種も開発されています。

4業務用・加工用に向く品種

1)高温耐性に優れる品種

近年猛暑年が頻発し、高温による米の外観品質の低下が大きな問題となっています。出穂期(穂が出て開花受精する時期)から20日間の日平均気温が26~27℃を超えると外観品質の低下が増加するといわれています※4。今回ご紹介した品種のうち、前掲の「にじのきらめき」の他、「笑みの絆」、「恋の予感」等も高温による品質低下が生じにくい品種です。

2)直播栽培に適する品種

前掲の「ちほみのり」の他、「さんさんまる」「ゆみあずさ」等は直播栽培にも適します。直播栽培は文字通り種子を田に直接播く栽培法です。苗を育てたり(育苗)、苗を水田に植える(田植)時間は米生産における作業時間全体の25%程度を占めます※5。直播栽培を導入することによって、育苗や田植が不要になるため省力化・低コスト化が期待できます。

3)耐病性を備えた品種

いもち病は稲作でもっとも被害の大きな病害であり、進行した場合はイネが枯れて減収につながります。「しふくのみのり」「秋はるか」「にこまるBL1号」等はいもち病に強い品種です。また、縞葉枯病はヒメトビウンカという虫によって媒介されるウイルス病であり、いもち病と同様に枯死による減収が生じます。「ほしじるし」「恋初めし」「さとのつき」等は縞葉枯病に抵抗性です。農林水産省では2021年に公表した「みどりの食料システム戦略」において、2050年までに化学農薬使用量を50%低減する目標を掲げています。病害に強い品種の利用はその目標達成に貢献するとともに低コスト生産にもつながります。
今回ご紹介した品種は栽培適地や早晩性も多岐にわたることから、各地で主力品種と作期を分散し作業集中を避けることにも利用できます。作期分散や前述の直播栽培は現在進行している農業経営規模拡大にも対応します。複数品種の用途適性と栽培特性を上手に組み合わせて利用することで、生産者と実需者の双方にメリットがある米生産につながることが期待されます。
なお、本稿では表に掲載したすべての品種の紹介はできませんでした。農研機構次世代作物開発研究センター「様々な用途に向くおコメの品種シリーズ 2020」には各品種の特性の概要が掲載されています。さらに詳しい特性については、表中の連絡先として記載した育成機関にお問い合わせください。

農研機構九州沖縄農業研究センター 暖地水田輪作研究領域 作物育種グループ長 黒木 慎

参考文献

  1. 農林水産省「米をめぐる状況について 令和5年9月」(2023a)
  2. (公社)米穀安定供給確保支援機構「米の消費動向調査結果(令和5年3月分)」(2023)
  3. 農研機構次世代作物開発研究センター「様々な用途に向くおコメの品種シリーズ 2020」
  4. 森田 敏「イネの高温登熟障害の克服に向けて」日本作物学会記事77 (1): 1-12(2008)
  5. 農林水産省「令和3年産農産物生産費」(2023b)