01米の品種最近の米の品種動向
1品種の変遷
お米の品種は時代とともに変化しています。良食味を象徴する米として1956(昭和31)年に「コシヒカリ」が誕生して久しく、国内全作付量の約4割を占める時代もありました。そして、これに「あきたこまち」「ひとめぼれ」「ヒノヒカリ」の4大銘柄で一時期、米のブランドを形成していました。その後、産地間競争が激化するなか、県オリジナルの銘柄で差別化を図ろうと、各県とも新たなブランド米の開発ラッシュとなり、「コシヒカリ」のウエートは3割程度に低下しています。
オリジナル銘柄の開発については、各地域での取組みが進められてきました。たとえば、山形県は2012年、「つや姫」をデビューさせ、生産者と栽培適地などの認定や品質基準を設けるなど、県をあげてブランド化に取り組みました。
2009年に北海道で栽培が始まった「ゆめぴりか」も、甘みと強いねばり、香りを有する極良食味米で道産米の最高峰と位置づけられました。同年に「北海道米の新たなブランド米協議会」を立ち上げ、適地栽培や種子更新率100%を守る一方、たんぱく質含有率など品質面での統一基準を設け、これをクリアしたものだけが協議会の認定マークを表示できる仕組みにしました。
この2銘柄の他にも、各県から多様な新銘柄が誕生しました(図表1)。
図表1 2011年以降に誕生した主なブランド
2米を買う時代からご飯を買う時代へ
こうした銘柄米の続々誕生の他、玄米や雑穀米、麦ご飯など健康を切り口としたご飯の人気が高まり、この新たな選択基準の存在感が増しています。
また、家庭炊飯が減り、「米を買う時代からご飯を買う時代」への移行が加速化するなか、外食や中食に流れる米のウエートが高まっています。さらに、地球温暖化への対応など、米の品種改良は「おいしさ」「健康」だけではない新たな価値開発など多方面に広がっています。
3業務用品種の開発
食生活や生活様式そのものの変化にともなって日本人の米消費が大幅に減少するとともに、外食や中食向けといった業務用や、加工用途向けの消費量が増加しています。これに使用する米は、比較的低価格で取引され、収量性が高いことが求められます。そこで、良食味で多収性の業務用に向く品種が、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)を中心に開発されてきました。
業務用品種の開発の方向性として、1)良食味の業務用品種、2)冷凍米飯や炊飯米、パックご飯などに向く加工用品種、3)カレー用の「華麗米」、寿司用の「笑みの絆」、リゾット用の「和みリゾット」などメニュー専用品種、4)「越のかおり」「ミズホチカラ」など米粉用品種の4タイプに大別されます。
(1)良食味の業務用品種
なかでも1)良食味の業務用品種に関して、栽培しやすく多収で病害虫に強いものや、外観や食味が良く粒が大きいものなど、さまざまな特徴の品種があります。
たとえば、「コシヒカリ」に近い良食味で、関東、北陸地域で栽培される「あきだわら」、「ひとめぼれ」と同等の良食味で東北中心に栽培される「萌えみのり」、上越市で栽培が始まった「つきあかり」や「みずほの輝き」も新潟県で普及しています。こうした品種は、作業効率や天候リスクを回避するため、「コシヒカリ」や「ひとめぼれ」など主要銘柄と作期が異なる(作期分散)ことも求められています。
最近では、高温登熟性に優れた多収の良食味品種で、「コシヒカリ」と同等の食味で15%の多収を実現した「にじのきらめき」が、「コシヒカリ」と同等、栽培可能な地域が広く、人気が高まっています。
(2)米粉用品種
米粉に適した原料米では従来、九州地区でパンに適した「ミズホチカラ」や、新潟県ではめんに適した「越のかおり」など、各地で加工適性や収量に優れた品種が開発されてきました。とくに「ミズホチカラ」は、生産拡大とともに加工品も多く誕生しています。
パン用に適した進化系新品種として、「笑みたわわ」が誕生し、「ミズホチカラ」同様、米粒がもろく細かな粒子の米粉になり、膨らみの良いパンが焼ける特徴があるとともに、晩生の「ミズホチカラ」に対し早生で収穫時期が早く、栽培適地も関東以西と広い点で普及が期待されています。また、めんに適した進化系品種として「亜次亜のかおり」が誕生し「越のかおり」を継ぐ品種として普及が期待されています。
(3)直播栽培
生産の面では、生産者の減少や高齢化により作業の省力化が求められています。生産面積の広い北海道ではホクレンが中心となり、水田に直接種子を播く直播栽培を推進しています。そこで、安定生産と食味を両立させた新品種「えみまる」が誕生し、奨励品種に指定し生産面積を拡大させています。
販売も業務用はもとより、「ななつぼし」同等の食味でしかも値頃感のある米として好評を得ています。
4高温耐性に優れた品種の開発
23年産米は、異常気象による米の品質低下が問題となりました。農林水産省が2023年12月に公表した10月31日現在の23年産水稲うるち玄米農産物検査結果では、1等米比率が全国平均で61.3%となり過去最低となりました。前22年産と比較すると18.1%、21年産比では22.3%低下し、猛暑と渇水による高温障害が要因とみられています。
被害の大きかった県を銘柄別に見ると、新潟県で「コシヒカリ」の1等米比率が4.9%、「こしいぶき」が15.4%と低水準ですが、「新之助」は95.3%を確保。山形県では、「コシヒカリ」が48.3%、「つや姫」54.1%、「雪若丸」88.1%。秋田県でも「あきたこまち」が57.6%ですが、「サキホコレ」は93.9%に上るなど、品種による違いも見受けられます。今後、良食味米の代名詞として知られる「コシヒカリ」の作付けについても、変化していく可能性があります。